堅気の人間とは言い難い威圧感を放つ、グリムジョーと呼ばれた男に平然とした態度で接するは、怯えの色一つの見せずグリムジョーの瞳を真っ直ぐと見据えて言った。


「今、忙しいの」

「知るかよ」

「相変わらずね」


関係ないと言わんばかりに胸倉を掴む力が強められる。喉が締め付けられて僅かに息苦しくなるが顔には出さない。どうしたものかと思案していれば、周囲の祓魔師達の囁きが聞こえてきた。


「何だアレは…」

「奇妙は仮面…骨か?」

「見ろ、腹に穴が…!」

「あんな悪魔見たこと無い!」


動揺は混乱を生み、混乱は恐怖を生む。不浄王を前に士気を下げる様な真似は出来ればしたくないのだが、グリムジョーの怒りは収まる事を知らず、一向に手を放してくれる様子は無い。


、そいつは…何だ?」


恐る恐るとシュラがグリムジョーを横目で見ながら問い掛けた。確かに突然現れたものが、一見人間に見えてこうも人間離れしていれば警戒するのも当然だ。何か、と問われれば以前の世界ならば彼等を指す名称が有り、其れを答えたのだろうが、此処では伝わる筈も無く、は暫し思案した後、ある意味最も簡潔且つ的確な説明をするのである。


「唯の悪霊の成り果て」


世に生まれ、命が消え、彷徨う魂は悪に染まり、俗に虚と呼ばれる化物、悪霊。其の種族の中で死神の力を手に入れた集団、其れが彼等だ。間違いは無い其の説明だったが、どうやらグリムジョーは気に入らなかったらしい。


「誰が悪霊だ」

「痛い痛い」


胸倉を掴む手とは反対の手で、グリムジョーはの顔を鷲掴みにし絞める。圧迫される顔に顔を掴む手をぺちぺちと叩きながら解放を訴えれば、意外にもグリムジョーはあっさりと其の手を放した。


「グリムジョー」

「何だよ」

「手を貸して」


顔から離れた手、再度見えるグリムジョーの顔。顔を見るのは随分久し振りだが相変わらずのようだ。そんな彼を真っ直ぐ見据え、淡々とは言うのである。


「後で幾らでも話すから」


其れが最大の決め手となる言葉だったのを、は知っている。彼とは随分長い付き合いなのだ、彼がどんな事を思い、考え、望んでいるのか。手に取るように、とまではいかないが大体の事なら分かってしまう。だからこそ、逆を言えばグリムジョーも分かるのだ。今最も効果的な言葉をは全て分かった上でグリムジョーに言っているのだと。答えは一つしか無く、其れが癪で溢れる舌打ち。胸倉から離れた手は、即ち是の意味を持っていた。


「ありがとう」


皺の寄ったシャツを伸ばし、乱れを正しながらは不機嫌丸出しのグリムジョーに礼を述べる。返ってきたのはやはり舌打ちで、其れもそっぽ向かれるおまけ付きだ。


「大丈夫なのか…?」


一見和解した様に見えるとグリムジョーに、恐る恐るとシュラが声を掛ければ、はシュラへ振り返り肯定する様に一度頷く。


「うん。彼にも手伝ってもらう」

「そ、そうか…」

「烏枢沙摩の召喚は手伝えない。まともなもの呼び出せる気がしないから」


此の“悪霊の成り果て”は本当に味方になったのだろうか?そんな疑惑がシュラから伝わってくるのでは笑った。そう疑われるのも当然だ、なにせ登場が登場の仕方なのだから。しかしシュラは一先ず味方である事と、が召喚の協力が出来ないという事に納得したのなら、シュラは未だ現状に理解が追いつかず呆然とする八百造に声を掛けて召喚の準備を再開させるのである。上級手騎士達が焚き火を囲む様に配置につき、印を結ぶ。同時に始まる詠唱。焚き火の炎が風を吹かせて大きく大きく広がれば、其れは一つの大きな姿へと変化させる。鳥の様な其の姿は、恐らく烏枢沙摩なのだろう。


《ワシは烏枢沙摩の名で明王陀羅尼の十人の僧正に仕えし者ぢゃよ。ワシの炎を得たくば血の証を示すんぢゃ》


開いた目は垂れ目で、烏枢沙摩は祓魔師達を見下ろし証しを示せと言う。其れに八百造は懐から巻物を取り出すと、其れを開いて烏枢沙摩に見える様に内容を翳した。


「この150年で僧正血統は減ってしもたんや。今ここにおる僧正は五人や、これで火を借りたい!」

《五人では足りんわい!》


巻物には烏枢沙摩契約血判と記されており、幾つもの名が連なっているのだが、除名された苗字の上には一筋の縦線が入れられ消されている。残された名は六つしかなく、烏枢沙摩の炎を借りるには十人の僧正の血の証が必要なのだが、其の中でも僧正は五人だけらしい。足りぬと巻物を燃やす烏枢沙摩は大きな炎の翼を揺らし、八百造を見下ろした。


《しかし、此の大地を不浄王の好きに腐らせるのも面白くはないし》


そして烏枢沙摩の視線は何故かへと向けられる。じっと見つめる様な視線を一身に受けながらは沈黙を貫いていると、烏枢沙摩は一度翼を大きく揺らす。


《人間の姿をした神…そう拝めるものぢゃない》


どうやらが死神である事を見抜いたらしい。表情を変えないとグリムジョーとは違い、其の事実すら知らない祓魔師達は烏枢沙摩の言葉の意味が分からず不思議そうに烏枢沙摩を見ていた。シュラは見抜いた烏枢沙摩に驚いている様で、柔造だけは険しい顔をしていたのを誰も気付く事は無かった。


《五人分の血に釣り合う火の加護を与えるんぢゃよ》

「!!」

「錫杖が…!!」


烏枢沙摩の翼から炎が放たれ、其れは各祓魔師が所有する武器へと灯り、炎の纏う武器を待つ面々は活気立って声を上げた。


「十分や!!不浄王だか汚物だか知らんけど、この金造様が一つ残らず熱殺菌したるわ!!」

「一番隊…俺に続け!」

「竜騎士は全員、火炎放射器を持って位置につけ!」

「マグヌス、イグニス、ブネウマ…出でよ火蜥蜴!!」

「医工騎士の称号を持つ者は優先的に衛生班へ!」


いよいよ、不浄王との戦いが始まる。各隊を率いる者が其々に指示を飛ばし、目の前の大きな悪魔を見据えて武器を握った。


「敵は幸い移動しないがどんどん巨大化しとる!まずは火蜥蜴で巨大な菌塊を焼却しながら少しずつ奥へ進む。ええな!」


不浄王を背に、全体の指揮を取る八百造が錫杖を携えて指示を飛ばす。皆が力強く頷いたのを確認すれば、八百造は合図を叫ぶのだ。


「進撃!!!!」


合図と共に駆け出す火蜥蜴。口から放たれる炎は不浄王の巨大な菌塊を燃やし尽くしながら前進し、其の後を武器を構えた祓魔師が進む。


「行くよ」

「俺に命令すんじゃねぇよ」


一箇所から進撃する祓魔師達を見届け、はグリムジョーに声を掛けてから歩き出す。命令するなと言う割に、素直にの後を追って付いて来るのだから、ほんの少し可笑しくては笑うのだ。


「つーか、何だこりゃ」

「不浄王って言う悪魔」


目の前でボコボコと菌塊を増殖させて巨大化していく得体の知れないものを見てグリムジョーが尋ねれば、的確に其れに答えたにグリムジョーは其れ以上何も言わなくなった。否、言う必要が無かったのかもしれない。此処は何処だとか、何故死んだ筈なのに生きてるのだとか、グリムジョーからすれば数え切れない程の疑問があるに違い無い。しかし其れ等は別に今すぐ問い詰める様な事では無いのだ。あとでじっくりと聞けば良いのである。後で幾らでも話すと、は約束したのだから。


「菌塊には触れない方がいいね」

「チッ、めんどくせぇ…」


触れれば即瘴気に毒されるだろう。安易に想像がつく其れにとグリムジョーは不浄王、大量の聳える菌塊から程良い距離を保って立ち止まる。直ぐ近くでは火蜥蜴に先頭を走らせて進む祓魔師達の団体がある。其の団体につかず、少し離れた箇所から進む事を選んだのは、やグリムジョーの術上、周囲を巻き込む危険性があったからだ。


虚閃セロ

「破道の五十四、廃炎」


ほぼ同時にとグリムジョーは手を翳して構え、其々の術を発動させた。が放った鬼道は円盤状の炎を放ち、火蜥蜴に引けを取らぬ火力で菌塊を焼き尽くし、グリムジョーの放った虚閃、所謂光線は菌塊を貫き遥か向こう側まで貫通する。二人の掌底から放たれた赤い其れは不浄王に有効な様で、見ていた祓魔師達が歓喜の声を上げた。全体の指揮を取る八百造も術の威力を見ていた様で、火蜥蜴の後につかせていた部隊の幾つかをやグリムジョーの後ろに回れと指示を飛ばす。菌塊が焼き払われて開けた地面を進み、または鬼道を放ち、グリムジョーは虚閃を撃つ。


「(キリが無い…)」


移動こそはしないが身を守ろうと襲って来る菌塊の一部を低級鬼道で払いながら、は目を細めた。此のまま地道に菌塊を焼き尽くし進むのも良いが、あまりにも効率が悪い。ならば、と考えを纏めたならばは掌を眼前に聳える菌塊の山に向け、其の場に立ち止まり、傍でひたすら虚閃を放ち続けるグリムジョーに言うのだ。


「サポート」

「俺に命令すんなってんだろ!!」


明らかに苛立ったグリムジョーに、ふっと口元が僅かに吊り上がる。文句を言いながらもグリムジョーは言う事を聞いてくれるのを知っているからだ。緩んだ表情を引き締めて、は凛とした声で詠唱を始める。


「“君臨者よ。血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ”」


詠唱を始めて直ぐ、突起でた菌塊の一部が詠唱に集中するへと襲い掛かる。其れを視界の端に捉え、素早く身を低くしを肩に担いで飛び上がったグリムジョーは、上空、霊子を固めた足場の上に着地をすると、足元でを捕らえられず地面にべちゃりと広がり落ちた菌塊に向けて虚閃を放った。


「“蒼火の壁に双蓮を刻む、大火の淵を遠天にて待つ”」


グリムジョーの肩に担がれたまま、は澱みなく詠唱を続け、掌を翳し続ける。最後の一文を読み上げたのなら、掌には蒼い光が集まり出し、一層強い光を放った。


「破道の七十三、双蓮蒼火墜」


術名を唱えると同時に放たれるのは先程までとは比べ物にならない程の広範囲の威力を持った蒼い炎だ。蒼い炎は菌塊を炎の中へと飲み込み広がり、焼き尽くす。とグリムジョーの後に続いていた祓魔師達は其の威力に一掃された菌塊よりも、其の蒼い炎に目を奪われていた。


「蒼い炎!?」

「あの炎はサタンの炎やないんか!」


ざわつく祓魔師達の中、目の前の光景に歯を食いしばって錫杖を握り直す男が一人。絶えず火を灯した錫杖を振るい菌塊を焼きながら前進する男は、隊を率いる者として決して動揺を見せない様に努めた。


「なんやねん…!」


けれど溢れてしまった言葉は苦々しい。状況が状況、皆が皆、菌塊に囲まれ己の身を守りつつ前進するのに精一杯な今、彼、柔造の独り言を拾ったものは一人も居なかった。柔造の脳裏に浮かぶのは、右目を持ち出そうとした際に蝮が言っていた台詞。メフィスト・フェレスがサタンの仔を極秘に生かし育て、其のサタンの仔は死神が護っている。というものだ。


「死神は…サタンの炎も使えるっちゅーんか?」


大きく振り下ろした錫杖に、燃え尽きる菌塊。蝮の話が本当ならば、サタンの仔だというのは十中八九、出張所の地下で蒼い炎を出した志摩が友人だと紹介した、あの黒髪の少年で。其の少年を護る死神という者は、必然といつも少年が居る場所に同じく居た、なのだと推測された。


「サタンの仔に…死神て!もう訳分からんわ!」


我武者羅に錫杖を扱い、唯ひたすらに目の前の菌塊を燃やしていく。そうやって柔造は一先ず己の思考の中から燐との存在を追いやるのだ。


「全然減らねぇじゃねぇか」

「耳が痛いね」


そんな柔造達の上空では、グリムジョーと、其の肩に担がれたままのが呑気に会話をしていた。確かに先程よりかは広範囲の焼却に成功しているが、燃やすよりも早く不浄王はどんどん巨大化していくのだから追い付かない。グリムジョーの肩から降り、己の足で霊子の足場に立つは、次なる鬼道を放とうと構え、詠唱を口にしようとするが、足元で何やら可笑しな方角を見て固まる雪男を見つけ、目で追う。


「ぼさっとすんじゃねぇ!!」


刹那、此処まで届く程に成長した菌塊が襲ってき、グリムジョーが勢い良くの腕を掴んで飛び退く。目標を見失い動きが一瞬止まった菌塊に素早くは炎熱系の鬼道を放ち、焼き尽くせば、素早くは再び視線を足元へと向け、口を開くのである。


「グリムジョー、雪男を追って」

「あ?誰だよ」

「さっきまで其処に居た眼鏡の子。向こうの茂みに入って行った。追って」


雪男を知らぬグリムジョーに、雪男の特徴と消えた茂みを指差しては頼む。目の良いグリムジョーは、正確に雪男が消えた其の茂みを確認すると、視線をへと戻し問うのだ。


「お前は」

「此処に残る」


即答、だった。グリムジョーは一度鼻を鳴らすと、掴んだままだったの腕を解放し、一歩踏み出す。


「そうかよ」


に背を向け、地面に向かって急降下するグリムジョーは、其のまま雪男の消えた茂みの中へと身を投じて姿を消した。性格は少々難有りな彼だが、腕は本物なので雪男の事は任せて問題無いだろう。は下を見下ろし目当ての人物を見つけたなら、グリムジョーと同じく霊子から飛び降りて下降すればシュラの直ぐ隣に降り立ち、迫る菌塊を視界の端に捉えて素早く鬼道を放つ。


「シュラ」

「あぁ!?なんだ!」


今忙しいと言わんばかりに菌塊に向けて苦無を投げ、詠唱し焼却するシュラは、には目もくれずひたすらに苦無を投げ、詠唱を唱え続ける。そんなシュラの隣でも鬼道を絶えず放ちながら周囲の音に飲み込まれないように声を張ってシュラに言う。


「全員下がらせて」

「はぁ!?何言ってんだ!」


手は印を結んだまま、シュラは勢い良くに振り返った。目にしたのは表情一つ変えずひたすら見た事も聞いた事も無い、死神ならではの術を唱え、放つの異様に真っ直ぐな瞳だ。


「早く」


有無を言わさぬような、そんな強い口調だった。何か考えがあるのだろう、自己主張をあまりしないがわざわざ此処まで出向いて頼んで来る位なのだ。ならばシュラの答えは一つしかなく、眼前に迫る菌塊を詠唱で焼却した後、半端ヤケクソ気味に荒げた声で言うのである。


「…分かったよ!」


シュラの返事には満足気に一度頷いて、踵を返し駆け出した。同時にシュラも配置から離れて後方、指揮を取る八百造の元へと一目散に向かうと、高台に立つ八百造を見上げて声を張り上げるのだ。


「志摩所長!一旦退避を!!」

「何!?」

「早く!!!」


シュラの申し出に困惑する八百造に、シュラは一歩も引かずに切羽詰まった様子で催促をする。理由を今、問い詰め聞く時間は無い。僅か数秒、訴えるシュラを見下ろしながら八百造は思考を巡らせ、決断し、次に顔を上げた時には錫杖を高く突き上げて叫んでいた。


「退避ィ!!!!総員一時退避だ!!!」


突然の八百造の退避命令に困惑しながらも従う祓魔師達。駆け足で下がる彼等の中、だけが不浄王を見据えて身動き一つ取らずにいた。


「一体何を考えて…」

「さぁな」


八百造は続々と引き返してくる面々を見下ろし確認しながら、高台の下、蟒の隣に並ぶシュラに問い掛ける。けれど返って来た返事は、まるで他人事の様なもので、シュラは真っ直ぐと目の前の光景を見ていた。


「けど」


巨大化する不浄王は次第に大きな洋風の建物へと姿を変え始める。そんな敵を目の前に、まるで逃げる様にして駆けて来る祓魔師の中、ただ一人、此方に背を向けて立つから目が離せない。


「アイツならやってくれる」


先陣を切っていた祓魔師達が全員退避し、妙に広くなった枯れ果てた地に一人立ち、は己の胸へと手を添えた。触れた掌、確かに感じる感触に“其れ”を掴んで一気に引き抜く。胸から現れ、右手に握られたのは刀身が剥き出しの一振りの日本刀だった。刹那、四方八方から襲い掛かる菌塊には強く地面を蹴り上げ宙へと飛ぶと、無重力の其の空間で弧を描き、身を捻らせたのなら、闇の中で体制を整え刀の切っ先を不浄王へと向けて唇を動かす。


「“天地万象、滅尽せよ”」


其の声はやけに通って聞こえ、周囲の音が一瞬消えて無くなったかの様な錯覚をさせるような、まるで鈴を振る様な声だった。


「“黒焔柳こくえんやなぎ)/rp>”」


其の瞬間、の構える刀の刀身全体から溢れる様に勢い良く飛び出し広がる黒い炎。炎は菌塊を飲み込み、森に引火し、更に広がり、周囲を火の海へと変えた。


「うわああああああ!」

「何だこれは!!?」

「早く下がれ!焼け死ぬぞ!!!」


高熱を放ちながら燃え、尚も広がり続ける炎に、近くに居た祓魔師達が慌てて走り逃げ惑う。一瞬にして黒い炎に飲み込まれた景色。焼き尽くされる菌塊、不浄王の一部。


「黒い炎…夜魔徳か!?」

「ちゃう、これは…!!」


柔造が黒い炎といえばと心当たりのある悪魔の名前を口にするが、其れを否定したのは父である八百造だった。夜魔徳の炎は強力だが、此れ程の威力は無い。全くの別物なのは一目瞭然だった。


「これが…」


死神の力。目の前の惨劇とも言える光景にシュラは口腔内に溜まった生唾を飲み込んだ。詠唱の後、名前の様なものを唱えた矢先飛び出した黒い炎に目が行きがちだが、シュラは確かに其の瞬間を目にしていた。


「これがお前の本来の力…其の姿なんだな!?」


黒い炎が放たれる直前、の持つ刀の柄は紺色から漆黒に変え、柄頭には長い二本の帯紐が結ばれ宙を舞っていた。そして何より目を引いたのは、自身だ。纏っていた筈の制服は真っ黒な袴の着物に変化し、高く結っていた筈の髪は下の方で一つに和紙で纏められ、其の上から水引で縛った、所謂、絵元結と呼ばれるものになっていたのだ。一瞬にして何もかもが変化したが、何よりの変化はの纏う空気である。


「行くよ、黒焔柳」


地面に音もなく降り立ったは、周囲を燃やす漆黒の炎に見向きもせずに刀、つまり斬魄刀を持ち直した。


「久々に、大暴れしようじゃあないの」


自然と持ち上がる口角。持ち直した斬魄刀の刀身に映り込むのは不敵な笑みを浮かべるの顔だった。










戻ル | 進ム

inserted by FC2 system