沖矢から外出禁止令を出され(よくよく考えれば別に守る必要は無かったのだが気付いたのが大分経ってからだった為に今更だからと結局素直に従っている)部屋で大人しくスマートフォンでアプリのゲームを夢中で取り組んでいた時、突如流れてきたアナウンスに肩が盛大に跳ねた。 『緊急連絡です!只今当列車の八号車で火災が発生致しました!七号車と六号車の御客様は迅速に前の車両へ避難して頂きます様お願いします。繰り返します!当列車の八号車で火災が発生致しました!』 「火災!?」 驚き過ぎて落としそうになったスマートフォンを無様に受け止めて素早く立ち上がる。耳を澄ませば遠くの方なのだろう、乗客達の悲鳴が聞こえ、どんどん其れが慌ただしい足音と共に近付いてきている事に気付く。アナウンスの通り前の車両に避難しているのだろう。 「逃げないと…!」 と、ドアノブを握ったところで動きが止まる。沖矢が部屋を後にした際に残した言葉がフラッシュバックしたからだ。 「…そういや有希子さんトイレ長くない…?長過ぎるよね…?」 そしてふと戻って来ていない大女優を思い出して青褪めるのだ。其れこそお腹を下している等では無い限り、女性とは言えあまりにも遅過ぎる帰りに何かあったんじゃないかと嫌な予感しかしなかったのは、沖矢が危険なんて言い残して出て行った所為だ。 「ど、どうしよ…!?こういう時どうするのが正解!?」 外に出るなと言った沖矢、帰って来ない有希子、避難しろと流れるアナウンス。そうこうしている間に悲鳴と足音は扉の目の前を通過しているのかかなり騒々しく大パニックが起きているのが簡単に予想出来た。扉を開けて出るにも出れない状況が続き、悲鳴と足音が遠去かった頃には扉の隙間から白い煙が部屋の中に侵入してきており、咄嗟には口元を両手で覆うものの、暫くすると恐る恐ると両手を僅かに下ろすのだ。 「…無臭?」 火事なら煙はもっと黒く焦げ臭そうなものなのに、部屋にどんどん充満する其れは白く無臭なのが不思議で仕方無く、馬鹿な真似だが試しに煙を沢山吸い込む為に深呼吸をしてみるものの全く気分が悪くなる気配は無いのだからクエスチョンマーク大量発生だ。 「…どういう事?」 完全に頭の許容範囲は超えてしまって、落ち着きたくて一先ずソファーに逆戻り。深く腰掛け、とりあえず頭の中を真っ白にしたくて背凭れに背を預けて肩の力を抜いた瞬間だった。 「ぎゃあ!!な、何!?」 突然爆発音が響き酷く揺れたかと思えば、次いで大音量で響いた爆発音。弾ける様に飛び上がって揺れる床にバランスを崩しそうになりながらも窓に齧り付き外を凝視すれば、何がどうしてそうなったのかは不明だが貨物車外れ、橋のど真ん中で其の貨物車が爆発したらしい。後から聞こえた爆発音は貨物車が爆発したものなのだろうが、現在進行形の此の揺れの原因は不明なままで、流石に酷過ぎる揺れに耐えかねては慌てて廊下に飛び出せば、丁度目の前を駆け抜けようとしていた存在に大きく目を見開くのだ。 「コナン君!?」 「の姉ちゃん!?何で此処に…!」 コナンもコナンでの登場を予期していなかった様で、其の場に急停止し目を見開いていた。其の間にも揺れは激しくは壁に手を付き、コナンもよろけつつもバランスを取る。何処からともなく甲高い金属音も聞こえてきた。 「一緒に来てた人に何があっても部屋に出るなって言われてて…」 「それでこんなに煙出てるのに部屋に居たの!?」 「うん…そんな臭くなかったし」 信じられない!と叫び出しそうなコナンの目が耐えきれずは口元を痙攣らせながら誤魔化した。勿論全く誤魔化せてなんかいないのだが。故に話題をすり替える事にするのである。 「それより、この揺れ何なのか知ってる?」 「さっきの爆発で八号車の後輪がレールから外れたか壊れたみたいなんだ!」 そう切羽詰まった表情で言い、再び走り出したコナンをは反射的に追い掛けた。コナンが向かったのは後ろの車両の方で、八号車もあるのである。そんな危ない所へ小学生を一人で行かせられる訳が無いのだ。 「コナン君!危ないよ!前の車両に避難しようよ!」 「八号車の後輪をどうにかしないと!このままじゃ横転する!!」 子供の割に足の速いコナンに、揺れて時に盛大に傾く床に苦戦しながら追い掛けるが耳を劈く金属音に負けない様に叫びコナンを引き留めようとするが、コナンは振り返りもせずに一心不乱に足を動かして走り続けた。そんなコナンの背中を目で追いながらは喉が引き攣るのを感じるのだ。 「横転するって…この列車が?」 「そう!!」 「えーーー!!どどどどどうするの!?」 「八号車を切り離すしか方法はないよ!!」 コナンを追いかけている内に辿り着いた七号車。またもや盛大に傾いては壁に派手に頭をぶつけた。痛がってる暇は無く、慌ててコナンの背中を追えば、コナンは八号車と七号車の連結部分を外す為に全身を使ってレバーを引っ張っている所だった。 「クソッ!!連結部分が歪んでて外れねぇ…!!」 「退いて!!」 余裕の無い表情でレバーを引くコナンを退かせる為、両手で掴み己の身に引き寄せたは、コナンを抱えながら剥き出しになっている連結部分に視線を落とす。確かに連結部分は歪んでおり、正式な方法ではもう外せそうには無さそうでは直さまレバーを引くという選択肢を捨てると残りの唯一の方法を素早く選択するのである。連結部分をまるで小石を蹴る様な軽々さで蹴り飛ばすのだ。するととんでもない音を上げて連結部分の鉄が変形し八号車が吹っ飛んでいき、揺れの収まった七号車。は安堵の息を吐くと丁寧にコナンを下ろして笑い掛けるのだ。 「これで良い?」 「う、うん…ありがと…」 はあくまで大人として、子供に心配や不安を感じさせまいと笑い掛けたのだが、コナンからすれば危機が去った事よりも目の前で見せられた人間離れした行為に意識が完全に持ってかれていた。外に居る所為で強い風に目の前を揺らめく髪を鬱陶しく思いながらはコナンの背中を車両内へと向けて軽く押すのだ。 「とりあえず中に入ろ、外にいても危ないし」 列車は近くの駅に停車し、乗客は全員事情聴取を受ける事となってホームに降りていた。一瞬にして人で埋め尽くされる其処は何処を見ても人、人、人ではコナンが人混みに紛れてしまわない様に手を握りながら周囲を見渡し、とある人物を探すのだ。 「コナン君!何処行ってたの!?探したのよ!」 「ご、ごめんなさい…」 するとどうやら向こうが先に見つけてくれたらしい。コナンに向かって駆け寄ってくる蘭には手を離すとコナンは蘭に向き合って先ず謝罪を口にした。コナンに何の外傷もない事を確認すると胸を撫で下ろした蘭の視線が、自然と今度はへと向き、其の大きな目が更に大きく開かれる。 「貴女は…」 「毛利さんの娘さん、だよね?」 「はい、娘の蘭です。貴女も乗ってたんですね」 「知り合いに誘ってもらって」 言葉を交わすのは初めて会ったレストランの時以来だろうか、過去を振り返りながらは人の波を逆らわない様に歩きながら蘭に笑みを浮かべて言葉を交わす。すると蘭の隣に並んでいたカチューシャを付けたボブヘアーの女子がを見ながら蘭に尋ねるのである。 「何、知り合いなの?」 「安室さんの隣に住んでるさん。私も殆ど話した事は無かったんだけど…」 蘭の丁寧な紹介に、にこりとが笑えば、カチューシャ女子と、其の後ろに立っていた妙に見覚えのある中性的な顔立ちの人物が笑みを浮かべてとの距離を詰めた。 「初めまして、蘭の親友の鈴木園子でーすっ!」 「僕は世良真純」 「宜しくね、園子ちゃん…と真澄ちゃん、かな…?間違ってたらごめんね」 「いいや、合ってるよ。でもよく分かったな、大体みんな間違えるんだけど」 「男の子にしてはちょっと声が高いかなーって」 園子の後に世良に目を向けたは、其の中性的な容姿に悩みながらも、ほぼ勘に等しい選択を信じて“ちゃん付け”をしたのなら、選択は間違っていなかったらしい、世良は八重歯を見せて笑った。 「さんが一緒に来てた知り合いって安室さんですか?」 「ううん、別の人だよ」 でいいよ、と付け足しながら蘭の問いは否定して歩く。順番に改札を出てから駅の外へと出た所で、何台ものパトカーと警官が集まって事情聴取を行なっていた。駅の出入り口付近に立つ警官が各列に順番に並ぶ様に指示を出しており、其れに従って達も既に出来上がっている列の最後尾に着くのである。そんなの後ろに並んだ世良は興味津々と言わんばかりにに聞くのだ。 「さんってさ、前に拳銃踏み付けて真っ二つにしてた人だよな?」 「真澄ちゃんは犯人をバイクの後輪で吹っ飛ばしてた子…だよね?」 「じゃあ会うのはこれで二回目だな、話すのは初めてだけど」 「そうだね」 にこにこと笑みを絶やさない世良に対し、は何とも言えない複雑な表情なのは、拳銃真っ二つで覚えられていた事が微妙な気持ちだったからである。幸いなのは、其れを目にしていながらも世良が普通に接してくれる点だ。此れは蘭やコナンにも言える事ではあるが。 「拳銃真っ二つってどう言う事よ…」 「あー、えっと…」 呆れた様子で半眼で問うてくる園子に何て言うべきかとが言葉を選んでいれば、どうやら事情聴取は順調に進んでいるらしく直ぐの番が回ってたらしく、警官が立ち話をするを呼び付けていた。 「呼ばれたし、またね!」 そう言って手を軽く振り園子や世良、蘭、コナンと別れて警官の元へ向かった。ナイスタイミング!と心の中で警官に感謝の気持ちを叫ぶ事は忘れない。 |