が事情聴取が済んだ頃にはコナン達は少なくとも近くには居なかった。其れは違う警官の所で事情聴取を受けているからなのか、それとも既に事情聴取を終えて何処かに行ってしまったのか。どちらにしろ、事情聴取後に合流する約束もしていなければ、合流しなければならない理由も無く、連絡先を交換している訳でも無いので姿が見当たらなくても何も問題は生じないのだが。今回の事情聴取では過去の経験を生かし、伏せるべき点は伏せる事にして話をする事に成功していた。つまり、七号車と八号車を繋ぐ連結部分を蹴り飛ばし八号車を切り離した事で列車が横転する事を防いだ事である。其の点さえ伏せてしまえば事情聴取は驚く程に早く済み、あの信じてもらえない話を永遠と繰り返す必要も無かったのだから最早感動ものである。本当は包み隠さず洗いざらい話すべきなのだろうが。


さん」

「昴さん!何処行ってたんですか?探したんですよ!」


爆発事故及び殺人事件が起きた故に止まった列車は今日はもう運行される事は無いだろう。となるとこの後どうなるのか、誰に聞けば良いのかと周囲を見渡していた時、不意に名前を呼ばれると同時に肩を掴まれては驚きつつも振り返る。すると其処には爆発前に部屋を出て行ったきりだった沖矢の姿があって、は沖矢の無事にほっと胸を撫で下ろすのだ。


「心配をかけたみたいで。さんは大丈夫でしたか?」

「はい、見ての通り五体満足です」

「それは良かった」


互いの無事を確認し笑い合い、二人は事情聴取で出来た人集りから離れる様に自然な流れで並んで移動した。駅の正面にあるロータリーにはミステリートレインから降ろされた客達が続々とタクシーを拾って発車して行っており、タクシーの出入りは激しい。


「どうします?代わりの列車は手配されるみたいですが未だ掛かるみたいですよ。僕は先にレンタカーでも借りて帰ろうかと思ってるんですが、さんも帰るのなら送りますよ」

「良いんですか?」

「ええ」


想像もしていなかった申し出に驚きつつも有り難く甘えさせてもらう事にすれば、快く沖矢は微笑んで頷き、早速歩き出す。何でも近くにレンタカーの店があり、先程確認したら空いた車両もあって、米花町にも同じ系列の店舗があるらしく、其処に返してくれれば良いとの事らしい。


「昴さん。有希子さん、あれから見てないんです。知りませんか?」

「それならさっき連絡がありましたよ。何でも他に行くところがあるとかで」

「そうでしたか!無事なら良かったです」


レンタカー店を目指して歩きながら、はずっと引っかかっていた事を口にすれば、沖矢は把握していたらしく、其の返事に今日一番安堵するのである。何も無く無事なのは何よりだからだ。駅近だというレンタカー店は本当に駅近で直ぐに到着し、沖矢は必要な手続きを速やかに済ませると、さっさと従業員から鍵を受け取り車が停車している場所まで案内される。借りた車は軽自動車らしく、最近人気でよく見かける車種だった。


「でも車で帰れるなんて贅沢ですよね」

「そうですか?」

「そうですよ!電車の方が安く帰れるじゃないですか!」


手配された列車ならタダだったかもしれませんし!なんて言いながらは助手席に、沖矢は運転席に乗り込む。新型なだけあって軽自動車とはいえど広々とした空間は居心地が良く、は其の空間に満足気に笑みを零して完全に体の力を抜いてリラックスすると、ゆっくりと車は走り出すのだ。


「電車だと他に乗客が居ますから」


青信号を渡り、未だ事情聴取が終わっていないのか、終わっているが手配された列車を待っているのか、駅の前で溢れている人々を何気無く眺めていた所で聞こえた意味深な言葉。の目が運転する沖矢の横顔に釘付けになっていると、沖矢はハンドルを切って右折をしながら言った。


「さっきも言いましたが彼とはもう関わらない方が良い」

「何でですか?」

「彼と関われば関わる程、さんが危険に巻き込まれる可能性が上がるからです」

「はぁ…」


突拍子も無い言葉達はの身の安全の為だと言うが、其れが納得出来るほど無職である点を除けば今の生活に困っていないは曖昧な言葉を零すのだ。すると其れが引っ掛かったのだろう、沖矢はすかさず其処を突く。


「嘘だと思ってますか?」

「いや、嘘というか…」


頬を指で掻きながらは少し目を瞑って考えた。何と言うべきか、何と表現するべきか考えて、けれど上手く表現出来そうになく思ったままをそのまま口にする事にするのだ。


「あたし安室さんと関わってから危険に巻き込まれる所か助けて貰いましたよ?壁の穴の修理は待ってくれてますし、バイト先も紹介して貰いましたし!」


だから昴さんの勘違いじゃないですか?と遠回しに主張すれば沖矢は其の返答を想定していたらしく緩りと笑みを浮かべてハンドルを切る。


「まあ…珈琲でも飲みながらゆっくりと話しましょうか」









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