「ウィル、あたし買い物がしたい」

「…そうだな」


ローリーの店を出て二人は再び島の中を並んで歩いていた。先程とは違う点はが片手に大きな紙袋を持っていることである。紙袋の中には先程購入した銃と、残りの余った札束が入っている。限りなく大金を持ち歩くには無用心な持ち歩き方だが隣には腕の立つウィルもいる為、は然程気にすることはなかった。そもそも、このような大胆な持ち歩き方を擦れ違う人々は特に気にするような素振りもない。何故なら誰も、あのような薄っぺらい紙袋の中に目を疑う程の大金が入っている等、想像すらすることがなかったからだ。


「この島で一番でかい服屋に行くか」

「好きなだけ買ってもいい?」

「ああ。それで買うんだろ?それはのお金だからな」


ウィルは視線を紙袋へと落す。ギャンブルで得たものとはいえ、それはが勝負に勝利し得た報酬なのだ。ウィルはまだ現実が受け入れられないのか苦笑いである。は少しばかり嬉しそうに目を細めると思い出したように声を上げた。ウィルは首を傾げる。


「どうした?」

「いや、返し忘れてたなって」


そう言っては紙袋の中へと手を突っ込み、中を探るようにガザガザと漁る。紙袋からちらほらと札束が露見されれば、それを見ていた通行人達が目が飛び出さんばかりに目を見開く。そしても漸く目当てのものが見つかったのか、それを取り出してウィルへと渡すのだ。


「はい。返すわ、1000ベリー」

「………。」


紙袋の中に入っている紙幣は殆どが1万ベリー故に、なかなか1000ベリーの紙幣を見つけられないでいたのだ。負けて戻ってこないと思っていた1000ベリーはこうしてウィルの手の中に戻ってきたのだが、ウィルは何とも言えない複雑な心境だった。ウィルの反応の薄さには不思議そうな顔をして「上乗せして返したほうがいい?」と問えば、ウィルはもう顔を横に勢いよく振るしか出来なかった。



















「どう?」

「似合うよ」

「どう?」

「可愛いよ」

「どう?」

「セクシーだな」


試着室。次々と衣服を着ては脱ぎ着ては脱ぎ、ウィルに披露するはこの上なく楽しそうだ。ウィルはの代わりに大金と銃の入った紙袋を片手に持ち、そんなに笑顔で問われればその服の感想を述べた。勿論、全て褒め言葉だ。


「全部買うの?」

「ううん。コレとコレとコレとコレとコレと…、……あとコレだけ!」

「(充分だよ…)そっか。じゃあレジに持って行くな」

「ありがとう」


一人では抱えきれないほどの服を指差し購入すると言ったに、内心そんなにいらないだろうと思いつつもウィルは器用に服を積み上げて片手で全て持つとレジへと向った。後ろをついてくるは今まで見たことが無いほどに楽しそうにしている。こういう所はやはり普通の女の子と変わらないのだなと思うとウィルは少しだけ安心した。レジに山積みに服を置くと、店員は一瞬驚きの色を見せたが直ぐに身体をくねらせて笑顔で会計をする。はじき出された金額は沢山の0がついていたが、は気にせず紙袋から無造作に札束を掴んでレジへと置いた。店員の目玉は飛び出しかけた瞬間である。


「いやぁ、有難う御座います有難う御座います!こんなにも沢山お買い上げ頂きまして!ええ、ええ!」

「あ、店員さん。買った服なんですけど着替えて行ってもいいですか?」

「勿論ですとも!どちらに致しますか?今お召しになられている服は一緒に袋へ入れておきましょう」

「えっと…、じゃあこれとこれとこれ…。あ、すみません。追加であそこのブーツ頂けますか?」

「まいどあり!」

「…………………………。」


ウィルは笑顔で変わらずレジの端に佇む。店員とのやり取りには一切加わることも関与せずの姿勢だ。あれやこれやと店員との会話は進み、一式分の洋服を持っては再び試着室へと入っていった。この店に着てから早三時間は経つ。他にも洋服店は沢山立ち並んでいるというのにはこの三時間ずっと動かず此処で何着も何着も試着を繰り返していた。ウィルは思う、この時間は一体あと何時間続くのだろうと。今すぐにでも他の洋服店が閉まれば良いと強く思う。暫くして開けられた試着室のカーテンの向こうから、購入したばかりの洋服を身に纏ったが出てきた。半袖のオフホワイトのトップスに、ボールドカラーのハイウエストミニスカート。スカートのウエスト部分は幅広となっておりレースアップになった可愛らしいデザインのものだった。スカートの中にトップスをインして、黒のニーハイソックスに同じく黒のショート丈の革のブーツのコーディネート。先程まで来ていた薄汚れた制服をは店員に手渡すと店員は笑顔でそれを受け取り同じくショップ袋の中へと入れた。


「こうやってみるとさ、もちゃんと女の子なんだな」

「どういう意味よ」

「いや、なんでもない」


色々な服を試着して披露していただが、正直なところ殆どちゃんと見ていなかったウィルからすれば、制服姿と自身の服以外の洋服を着るをちゃんと見るのは初めてだった。洋服なんて何でもいいじゃないか、そんな風にウィルは考えているからこそ、ウィルは今の流行の服やこだわり等はない。の洋服選びに付き合うのも、別に好んでというわけでもないのだ。試着の度に求められれば感想を述べるのは、そうしないと大体の女が機嫌を悪くするからだ。かといって本心を述べては逆効果になることもウィルは良く知っていたので口から出る言葉はいつでも褒め言葉のみである。ウィルは思う。洋服選びに夢中になり、こうしてそれなりの格好をするとはそこらにいる女と変わりないのだと。故にどうしてあの島で捨てられ、あのような悲劇に遭ってしまったのか。そう考えるとあまりにもウィルはが不憫に思えて仕方が無く、せめてこれからはと思い、が要求するれば出来るだけ何でも叶えようと心に決めた。


「次はあそこがいい」

「…まだ買う気?」

「え?うん」

「………。」


しかし正直な所、ウィルはもう帰りたかった。ウィルの両手には大量の大きな紙袋がぶら下がっている。身体を鍛えている為、重い等のことはないのだが、何せそろそろ疲れた。ただじっと待ち見続けるのは凄く疲れる。今日は充分買ったのだから、買い物はまた別日にしようと提案しようとするが、はウィルを置いてさっさと店内へと入っていってしまうのだ。ついにウィルはその場に崩れ落ちた。


「ねぇウィル。これ可愛くない?」

「…そうだな」

「何、変?」

「いや、よく似合ってるよ」


入った店は雑貨屋だった。様々なアクセサリー等が並べられており、その中からはスカートと同じボールドカラーの太めカチューシャを手に取った。サテン素材の其れを頭に身に着け、ウィルに振り返るが微妙な反応を見せるウィルにの片眉が上がる。慌てて笑顔を作り褒めればは満足そうにそのカチューシャと、棚に飾られた黒のリュックサックを手に取りレジへ向った。意外と早く済んだ買い物にウィルはほっと息を吐いていると、また一つ紙袋を持ったが戻ってきた。


「付き合ってくれてありがとう」

「気は済んだ?」

「うん」


が満足そうに頷けば自然と笑顔となるウィル。漸くこの地獄の買物から解放されるのだ、嬉しくないはずがなかった。店の外へと出るとウィルは一旦荷物を船に置きに戻ろうと提案し、港の方面と向って歩く。ウィルが大量に抱えた紙袋に行き交う人々の視線は釘付けだった。その荷物を抱えているのが、顔立ちの整った青年なのだから余計に視線が集まる。時折女性の鋭い視線がへと向くのでは少しウィルとは離れて歩いた。










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