「うー…」

「悩んでるなぁ、

「色々ありすぎて何がいいんだか分からないんだもの」


銃の手入れをするウィルに、甲板で大の字に寝転がりながら図鑑を片手には言う。あれから二週間程経つが、未だには悪魔の実を口にすることは決めたものの何の実にするか決めかねていた。ウィルが以前手に入れたという、あの悪魔の実は現時点では特にこれといった能力を持たない実だという。しかし食す直前、存在する悪魔の実の能力やその実の外見をイメージしながら食すことで、その実の能力を得ることが出来るのだというのだ。図鑑に載っている実ならば能力や外見が記されている為、イメージをすることに関しては問題は無いのだが、あまりのも多くの種類があるが故には決めきれずにいたのだ。その為、ウィルに修行をつけてもらいつつも空いた時間が出来れば、こうして図鑑を片手に唸り悩む日々を続けているのである。


「候補はあるんだろ?」

「メラメラの実でしょー、ゴロゴロの実でしょー、ヒエヒエの実と、ピカピカの実かなぁ…。パラミシアだったら、スベスベの実、キロキロの実かな。一応そんだけ。あ、ヤミヤミの実は論外。痛いの無理」

「一応そんだけって割には多いだろ…。てか、スベスベとキロキロの実って戦闘向かないだろ」

「一応スベスベは物理攻撃無効化できるみたいだし、絶大な美容効果もあるって書いてた!キロキロの実は体重軽く出来るでしょ?ダイエットしなくても体重軽く出来るって嬉しいじゃない」

「………。」

「何よ、その目」

「悪魔の実だぞ?しかもどんな実にも出来る超レアな実!売ったら1億ベリー以上の値打ちがつく実なの、分かる?」

「分かってるけど、あたしだって女の子なのよ。外見気にして何が悪いの!」


まるで威嚇する噛み付く寸前の犬のように睨みつけてくるにウィルはバレないように小さく溜息を吐いた。売った時の1億ベリーが惜しくてにそう言ったわけではない、に渡そうとは既に決めた為、がどんな実を選びどんな能力を得ても何も文句を言うつもりはないのだが、あまりにも本来戦闘を補う為(主に身体能力)に渡したものなのだから、ウィルとしてはそういった事で能力を選んで欲しいのだ。絶大な美容効果やダイエットの為にと言われていたらウィルはに悪魔の実を譲ろうとは思うことはなかっただろう。


「スベスベもキロキロも結構真剣なんだけど、当初の目的で選ぶならやっぱりロギア系で挙げた4つのどれかよね。メラメラは何か格好いいし、ゴロゴロは使い勝手良さそうだし、ヒエヒエだったら海凍らせたら溺れないし、ピカピカは何か異常に強そう」

「あー…。ゴロゴロは分かんねぇけど他の3つは結構強い。ヒエヒエとピカピカの実の能力者なら俺の上司に居るぞ」

「…ウィルって何やってる人なの?」

「ん?」


半眼でこちらを見、問うにウィルは首を傾げて笑った。以前からウィルの素性は気になってはいたものの、それでもあまり気にしないでいたのだが、強いと思われる悪魔の実を食べた能力者が2人も上司に居るというのだから流石にも聞かずにはいられなかったのだ。上司にそんな強い人間が居るだなんて、そんなに強者が集まる集団は一体何の為に存在するのだろうか。しかしウィルが返した言葉はの疑問を解決することはなかった。


「正義のヒーロー」



















長い航海を経て、辿りついた次の島は静かな島だった。以前の島に比べて行き交う人々は物静かで知的な印象を抱かせる。この島にもウィルは来たことがあるらしく慣れた様子での前を歩いていた。島の街並みも比較的落ち着いた雰囲気で穏やかである。


「とりあえず先に食料調達してくる。も付いて来る?何処かで待っててもいいけど」

「んー…。あ、ウィル。あれって何?」

「あれはこの島で一番大きい図書館。気になる?」

「うん。図書館で待っててもいい?」

「いいよ」


前方に見えた大きな建物。それを指して問えばウィルはそう答えた。食料調達が終わり次第、ウィルが図書館に迎えに来ると決め、とウィルは別行動を取った。は図書館へと進んで行き、ウィルは市場のある方へと向う。図書館の前までくれば、古い木で出来た大きな扉を押して足を踏み入れれば、其処はとても静かな空間だった。高い天井、天井ギリギリまでに敷き詰められた沢山の本達。本を読むことが嫌いではないものの、好きと言う程でもない。図書館に足を運んだのにはちゃんとした理由があった。


「(この世界の事、ちゃんと知っておかないと…)」


はあまりにもこの世界に関して無知だった。誰もが知っている常識を知らない。その無知さが、他人に疑心を抱かせてしまう。その疑心がまた、の素性を暴かれる鍵になってしまうこともあるかもしれないのだ。実際にあの名の無い島では、身なりや所持品、無知さから老婆に異世界から来たのだと知られ、あと少しで売られてしまう所だった。誰もが知っているという悪魔の実の存在を知らぬが故にウィルにも不思議がられた。ウィルに異世界から来たことを暴露してしまえば、ウィルはこの世界の事を一から丁寧に教えてくれたであろう。しかしそれが出来ずウィルにも隠し通そうとするのは、は未だウィルを完全には信用しきれないでいたからである。異世界から来た、そんな事を伝えて果たしてウィルは変わらず接してくれるだろうか。は自信を持って、そうだと言えなかった。裏切るかもしれない。また売られそうになるかもしれない。そんな思いがどうしても消えず、は人に対して以前よりも慎重になっていた。


「(とりあえず歴史とか、そんな感じから…?)」


一先ず歴史コーナーへと向い、歴史の本を何冊か選ぶと、続いて地理のコーナーで一冊手に取る。そして本日付の新聞を持って空いてる席へとついた。山積みになった本。全て読むには時間が掛かるのは一目瞭然で、ウィルが迎えに来るまでに全て読めるか怪しい。しかしは落ち着いた様子で先ずは歴史の本を手に取った。そして読むのではなく、ぱらぱらとページを捲る。そして最後のページまで一通り目を通せば、今度は目次のページを開いて文字を追った。殆ど内容は読んではいないが、軽く目を通すだけで何となくどんな内容なのかが分かる。文字の書き方、構成、さっと見ただけでそれが“分かりやすい本”なのか“分かりにくい本”なのかが分かる。目次を見て、知りたい情報が記されているか、それが何ページにあるのか。指で指しながら文字を追う。


「ひとつなぎの大秘宝、ワンピースを手に入れた男…。海賊王、ゴールド・ロジャー…」


目に留まった文字には思わず声を漏らす。図書館内には殆ど人は居らず、の声を拾ったものは居なかった。思い出すのはあの名の無い島でのこと。あの老婆が言っていた言葉だ。









「大海賊時代が到来してからは、奴の遺したひとつなぎの大秘宝、ワンピースを求めて世界中の海賊達がうじゃうじゃと集まって来てるってんだから、たまったもんじゃない」









「(この人が、海賊の王…)」


目次の通りにページを開けば、処刑された時の写真だろうか。台の上で膝を付き、笑みを浮かべている癖のある黒髪の中年男性の写真があった。はその写真を指でなぞる。


「(あの海賊達の…王に君臨した人…)」


あの一件以来、は海賊を毛嫌いする傾向があった。その王であり、トップに君臨していたというゴールド・ロジャーと言う男。が好感を抱くはずがなかった。本の内容を読む限り、あの老婆の話を聞く限り、この男がワンピースという秘宝を遺していなければ海賊が増えることもなく、自身もあんな目に合わなかったのかもしれないからだ。全ての元凶が、この写真に写る男でさえには思えた。










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