倒した海賊達は後に無事に回収されるよう、ウィルが手配したらしい。回収すなわち逮捕のことなのだろう、通報をちゃんとしていた事に少しばかり驚く。そのまま放置する気なのだと思っていたからだ。あの場に海賊達を放置し、やって来たのはバーのような落ち着いたお洒落な店だった。店は全体的に薄暗く、鮮やかな赤や黄や青等の色の照明が店内を照らす。妙に色っぽい雰囲気の店だった。
「此処のパスタは美味しいから食べすぎないようにね」
「酒も美味いぜ?好きなだけ食って飲めよ!」
一番端のカウンター席に奥からヒナ、、ウィルの順に座り、メニューを開いて目を通す。正直な所、何でも良かったのでどれにすれば良いか悩んでしまう。上から下まで、目を通すのを二往復した所で一番最初に目に留まった品を注文する事にした。
「お水とカルボナーラを下さい」
「わたくしはペペロンチーノとビールを」
「俺はミートソースのパスタに、生ハムとアボカドのサラダ。あとミネストローネとビールで!」
続いて全員が店主に注文をすれば、店主は無愛想に「はいよ」と返事をした。どうやら店主はあまり愛想が良くないらしく、それも今に始まった事ではないようで、ウィルがこっそりと耳打ちで「昔から顰めっ面、直らねぇんだ」なんて笑いながら言うのだ。思わずつられて笑いそうになるが、店主にも其れが聞こえていたらしい、ウィルの顔面に勢い良く酒瓶が投げ付けられ派手な音を立てて砕け散った。
「ちょっとマスター、止めて頂戴。酒が勿体無いわ」
「よォ、ヒナ。久しぶりじゃねぇか」
「お久しぶりね。紹介するわ、彼女は。今ウィルが面倒を見てる」
「…こいつが人の面倒見れるタマか?」
酒でずぶ濡れのウィルは店員の女性からタオルを受け取り、顔や髪、服等を拭きながらマスターに「マスター酷ぇー」なんて笑っている。どうやらこのやり取りも今に始まった事ではなさそうだ。
「いつこの島に来た」
「今日よ」
「あの海賊共を締め上げたのはお前等だな」
「よく分かったなー。マスター」
目の前にジョッキに入ったビールが2つと、ガラスコップに入った水が置かれる。ヒナとウィルはジョッキを片手に持ち、マスターも何時の間にか手にジョッキを持っていた。前と左右隣から視線を感じ、コップを持てば皆がそれを少し多く持ち上げる。乾杯、マスターの低い声が響き、全員のコップがカンッと軽くぶつかって音が鳴った。皆が酒に口を付け、水ではあるもののも口腔内に水を流し込む。
「と言ったか。俺はこの店の店主、グスタだ。こいつらからはマスターと呼ばれているが、好きに呼んでくれていい」
「です、宜しく御願いします」
まさか声を掛けられるとは思わず、戸惑いながらも何とか挨拶をする。グスタ、通称マスターは所謂強面だった。鍛えているのか筋肉質の大柄で、目付きも切れ長で鋭い。半袖の下から見える太い腕には何か刺青が見えたが、はあえて見なかったことにした。刺青を入れている人など、ヤの付く人種の人しか入れている所を見たことが無かったからだ。それから注文した料理が並べられ、待ってましたといわんばかりに鳴る腹。その良い匂いに唾液が出てくる。フォークを片手に一口頬張れば何とも言えない絶妙な美味が広がった。
「マスターはこんな人だけど、味はなかなかなものでしょう」
「はい!とても美味しいです」
「この島に来たら必ず此処に来るの。今日もとても美味しいわ、マスター。ヒナ満足」
「そうかい」
洗った食器をタオルで拭きながらヒナの言葉に返事を返すグスタは視線は皿に向けたままだ。照れくさいのか、それとも関心がないのか。褒められているというのにグスタの態度はあまりにも素っ気無い。しかしヒナは薄く笑うだけで、またビールを飲む。隣では既に全ての皿を空にした男が元気良く追加のビールをオーダーしていた。
「は飲まねぇのか?」
「あたしはいいよ」
「飲めないの?」
「あ、いえ。飲めないわけじゃないんですが…」
ウィルがの持つコップを指差せば、は顔を横に振って断る。酒が飲めないわけではないが、一応未成年の為、飲酒はあまり気が進まなかった。しかし続いてヒナに問われ、飲めないわけではないことを告げてからは、しまったと顔を引き攣らせる。ウィルとヒナが不気味に笑みを浮かべているからだ。
「何にする」
「………梅酒の水割りを御願いします」
どん、と肘をついて前のめりになって問うグスタにはいよいよ断れなくなる。小さく溜息を吐き、渋々とアルコールを注文をすればグスタはにやりと笑みを浮かべた。やられた、そんな気分に陥った。
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