けたたましい音を立て、青白い光がの身体に纏わり付くように蠢く。突然の事に動揺を隠せない周囲の人々。武装している海兵は思わずへと発砲するが、それはを負傷させる所か弾は貫通し飛び抜けて行った。弾丸が通過した箇所はバチバチと音を立てて皮膚も服すらも修復されていく。痛々しいそんな音を立てながら元通りの無傷の状態になったを見て、発砲した海兵は驚き戸惑い、恐怖の色を見せ後退った。未だ音を立てて光を纏うにウィルは目を見開き、黄猿は己の顎を撫で付ける。


「電気…?いや、雷か。…ゴロゴロの実…?いつの間に…!」

「う〜〜ん。能力者になってたとは思わなかったねぇ…。ちと面倒な事になっちゃったねェ〜」


未だ放電を続けるに対峙する為、歩を進めた黄猿。黄猿の纏う雰囲気が普段のものとは違う戦場で漂わせるものに変化した事に気付き、ウィルは黄猿を止めようと動こうとするのだが、其れは直ぐにウィルを見張っていた黄猿の部下に当たる海兵達に阻止された。筋肉一つ、ウィルが動かした所で瞬時に背後へと回り込み、手を後ろで捻り上げて拘束され、それから足払いでその場に倒れこませれば、瞬時に上に跨り完全にウィルを取り押さえたのだ。ウィルは舌打ちを零し、逃れようと身動げば捻り上げられた腕を更に強く捻られ顔を顰める。


「お揃いの能力者になることォ…楽しみにしてたんだけどねェ〜。残念だねェ…」

「黙れ」


光を纏い飄々と笑みを浮かべている黄猿と、雷を纏い鋭い目付きで睨みつける。一瞬即発の空気に、海兵達は銃口をへと向けた。暫しの沈黙、しかし直ぐに事態は変わる。が雷の塊を黄猿へと放出すれば、すぐさま黄猿も光の塊で迫り来る雷の塊を相殺する。目の前で強烈な光に皆が目を眩ませ、相殺の衝撃で起きた爆風に腕を前にして衝撃波に耐えている間に事態は一変していた。その場にはの姿が無かったのだ。


「黄猿さん!!!」

「…そう怖い顔しなさんなってェ…」


はあの雷を放った後、直ぐに踵を返して全速力で逃げて行ったのだ。敵は海軍本部大将を含む多勢。それを一人で相手にすることを考えれば、隙を見て逃げ出すことが一番賢明な判断であることは間違いなかった。但し、逃げきる事が出来ればの話なのだが。


「…ウィルゥ…。分かってるたぁ思うけどねェ〜、今見逃したとしてもォ…あの御嬢さんはどうせ直ぐに捕まっちゃうよォ〜〜?」


地面に押さえ付けられながら、怒りを露にし黄猿を睨むウィルに黄猿は困ったように頭を掻いて言うのだ。幼い少女が一人、このグランドラインで何時までも逃げ切れるはずがない。現に今からでも黄猿が能力を持って追いかければ直ぐにでも捕まえることは容易いのだ。それをウィルも理解しているのだろう、逃げ切れるはずがないと分かっているのだ。しかしそれでも見逃せと目で黄猿に訴えるのは、その僅かな可能性に賭けたかったからだ。


「…今回だけだよォ」


大袈裟に溜息を吐いて見せれば、黄猿はくるりと踵を返し片手を上げて軽く振る。その合図に答える様に銃を構えていた海兵達が銃を降ろすと、ウィルを取り押さえていた海兵達も、押さえつける力を抜いた。刹那、ウィルは海兵達を勢いよく振り払えばそのままが逃げ去った方へと駆け出す。しかしそれは直ぐに近くに立っていた海兵達が慌てて掴み掛かったことにより直ぐに立ち止まらされる事となる。ウィルは激しく腕を振るい抵抗した。


「放せよ!!放せ!!!」

「ちょっとちょっとォ〜〜…、何処行く気なのォ…」

「やめんかウィル!!」


海兵達を殴り、投げ飛ばし、今直ぐにを追いかけようとするウィルの姿に黄猿は困ったように眉間に皺を寄せた。黄猿がウィルに処罰を与えようとしたその瞬間、今迄黙って状況を見ていたガープが大声を張り上げ、ウィルの頭に拳骨を叩き落したのだ。激痛が突如走った頭部を咄嗟に押さえ、暫くその痛みに悶えるとウィルは勢いよくガープへと振り返り怒鳴る。


「ガープさん!!」

「天竜人や大将に歯向かえば、どうなるか分からんお前じゃないはずじゃ!!」

「けど!!!」


ガープが怒鳴ればウィルも怒鳴る。一向に譲らない二人を落ち着かない様子で見守る海兵達と口を噤んだ黄猿。ガープは一度視線を黄猿へと向ければ、黄猿はやれやれと、ウィルへと伸ばしていた手を静かに降ろした。ガープは再び視線をウィルへと向け、その大きな両手でウィルの肩をしっかりと掴む。真っ直ぐ視線をウィルへと向ければ、ウィルもガープの目を見て何か言いかけるも、言わぬまま口を閉じた。少しは冷静さを取り戻せた様子のウィルを見て、ガープは小さく頷くとゆっくりと口を開く。


「今は耐えるんじゃ。無事に逃げ切ることを祈ることしか出来ん」


その言葉はウィルの胸に深く落ちてくる。こうなってしまえば海軍という組織に身を置いている以上、出来ることは殆ど皆無に等しい。祈ることしか出来ない事が、どれだけ不安で苦痛で歯痒いか。ウィルは耐えるように下唇を噛む。ぷつり、と音が鳴ったと思えば口腔内に鉄の味が広がった。


「許せウィル…。知らんかったとはいえ、わしが呼んだばかりに…」

「…ガープさんは悪くない…」


俯きがちに悔いるガープにウィルは目を閉じて顔を横に振り否定した。その声はとても落ち着いていて、トーンは普段よりも低い。ウィルは己の両手を見ると、くしゃりと顔を歪めて言った。


「悪いのは…力のない俺だ…!」



















その後、新聞の片隅に小さく、一つの新しい手配書が載せられた。ALIVEのみの手配書は8000万ベリーの高額な賞金額で、写真に写っているのは柔らかなウェーブを描いた漆黒の髪の少女の姿。少女は異世界から来た事や、以前銃騎士の姫と呼ばれていた事、そしてゴロゴロの実の能力者である事から“異世界の雷姫”という異名を付けられ、その異名と共にと言う名と存在は世界中の海へと広がった。










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