《こんな事はなかった!!前!!代!ミモーーーン!!グロッキーモンスターズ!!この巨漢達が宙を舞ったよ!!会場圧倒!!強いっ!!ハートのチーム!!》


遥か上空、大きな鳥の背に乗ったアナウンスの男が大音量で実況を続ける。わっと沸き起こる場、巻き起こる歓声は主にフォクシー海賊団の船員のものだ。これからの試合は、勝敗はどうなると興奮の熱気に包まれるフィールドの中、、ペンギン、シャチの3人は声を潜めることもせず、敵を見据えて口を開く。声を潜めたところで、これだけの歓声の中なら、相手に会話が届く訳が無かったからだ。


「で、どうする?」

「どうやってアイツをゴールに叩き込むかだよな」


ドジョーの血を引く魚巨人であるビッグパンの肌が、どれだけ滑るかはシャチが其の身をもって知っている。簡単に掴んで投げて、という方法は難しい。そもそもあんな巨体を投げれるのかも謎だ。ビッグパンをどうゴールするかを相談していれば、ゆらりと動くビッグパン。そして突如此方へと駆けてくるのが見えれば直ぐさま3人は戦闘態勢に入るのだが、ビッグパンの足元にキラリと光るものを捉えれば、さっと身を翻して走り出すのである。


《ビッグパンの攻撃!!!》

「“トゥーバッドダンス”!!!」

「!」

「うおお!!」

「ぎゃああーーーっ!!!」

「何で逃げてんだよ!お前ら!!」


フィールドの外で見守っているハートの海賊団の船員が、逃げ惑う3人を見て叫ぶ。逃げてばかりじゃ何も変わらない、そんな意を込めて叫んだ訳だが、全力で駆けるペンギンは背後に迫り来るキラリと光る鈍色の其れを気にしながらフィールドの外で此方を見守っている仲間に叫ぶのである。


「コイツの靴の裏に刃物が…!!」

「はあ!?」


よく目を凝らせば見える、靴底に取り付けられた何本もの鋭利な針の様な刃物。あんなもので踏まれれば、ひとたまりもないのは間違いないのだ。


「おい審判!!武器の使用はナシじゃねぇのか!?」


靴底の刃物を目にした船員が、ルール違反だと審判に声を荒げる。けれどそっぽ向いて口笛を吹くあからさまな態度の審判は、フィールドを一切見ようとはしない。


「フェッフェッ、偶然見てねぇんなら仕方ねぇよなー」


そんな審判の態度に愉快だと笑い声を上げるフォクシーが憎らしい。其の間にも、ペンギン、シャチは靴底に針を仕込んだビッグパンに追い掛けられ続けており、フィールド内を駆け回っている。刹那、は背後で聞こえた勢い良く風を切る音に目を見開く。ブン、ブォン、そんな重量のある風を切る音。目だけを背後に向ければ、同じく異変を感じて振り返ったペンギンとシャチは、背後に迫る光景にまた悲鳴を上げるのである。


「ぎゃあーーー!!!」

「ちょ、どっから出して来た!!?」

「おい審判見ろ!!!斧使ってんぞ今度は!!!」

「見てません、偶然」


靴底の針だけではない。何処からか斧を取り出し、振り回すビッグパンに再度講義を唱える外野の仲間達だが、やはり審判は知らぬ振りを決め込んでおり、堂々とルール違反を行うフォクシー海賊団を咎めようとはしない。そもそも審判はフォクシー海賊団の船員だ。平等を求める方が難しい話なので、理不尽な話ではあるが致し方ない結果と言えば、そうである。


「ラチが開かねぇな!」

「ゴロちゃんはこのまま走れ!」

「!」


逃げるばかりじゃ何も切り開けず、ただ体力を消耗するだけなのだ。迎え討たんとばかりに急に駆けるのを止めて立ち止まりビッグパンと対峙するペンギンとシャチを尻目に、は目を丸くして驚きつつも素直に其の儘走り続けた。


「返り討ちにしてやる!」

「そしてゴールしてやるぜ!」

《おおーっと!逃げるのをやめて迎え討つ気かーーー!!?このまま激突だーーー!!!》


迫るビッグパンに向かって、同時に駆け出したペンギンとシャチに、アナウンスの男も熱の籠もった実況を行う。誰もが、どうなるのかと食い入って見守る中、踏み潰そうと高く足を上げて駆けていたビッグパンが、突如腰を落とし身を低くしたのなら、ペンギンとシャチは慌てて身構える。しかし、既に手遅れだった。


「“ドジョウすくいスライディング”!!!」

「うわっ!!」

「しまっ…!!」


長く滑る腕を前へと突き出して、技名そのままスライディングをするビッグパンに、思わず地面を蹴って避けたペンギンとシャチは、其の選択が誤りである事に直ぐさま気付き顔色を一変させる。浮いた身体は重力によって下降するしかなく、其処は芝生の生えた地面ではなく、ビッグパンの滑る肌の上だ。


「“ドジョウレーシングサーカス”!!!」

《出た!!曲技“レーシングサーカス”広い背中で滑る二人ー!!そして逃げられないーーーっ!!》

「あああああああーーー!!」

「目が、回るっ!うぇっ…!!」

「おい頼むぞお前らホント!!!」


ビッグパンの背で滑るペンギンとシャチに、ビッグパンは素早く海老反りとなって足と手を繋げば、ペンギンとシャチはクルクルとひたすら滑るがままにビッグパンの背中で回り続ける。2人の救出に向かおうと方向転換しようとしただったが、目の前に現れた二つの影に思わず足を止めた。


《そうしてる間にゴロちゃんの正面にはハンバーグとピクルスが!!おやおや?少々いで立ちが違ってるよ?》

「!」


アナウンスの男は少々と言うが、誰がどう見ても少々とは言い難い。いつの間に、一体何処に仕込んでいたのかは知らないが、ハンバーグとピクルスは明らかに武装をしての目の前に立ち塞がっているのだ。


《リーダー、ハンバーグは拳に鉄のサック、肘には鉄のサポーター。一方ピクルスは棘付きの肩当をしてる!凶器はルール上反則だねーーー!!おっと、しかしこれは偶然審判は今丁度ストレッチ中で後ろを向きっぱなしだよーー!!》

「………ぶししし、いくぞ。“ドジョウコースター”!!」

「「!!?」」


突如、ビッグパンの背で滑り回り続けていたペンギンとシャチが宙へと投げ出される。目を回す2人は無防備で、ただ呆然と宙を舞っていた。


「“スピニングタックル”!!」


そんなペンギンとシャチに気を取られていると、武装したピクルスが高速回転をしながらに突っ込む。間一髪、飛び退いて回避しただったが、狙いはではないらしい。ハンバーグが高速回転するピクルスに弾かれ高く飛躍すれば、ハンバーグは両手を頭の上で組み、大きく振りかぶってペンギンに一直線飛んで行く。


《狙いは…!!ゴロちゃんでも“ボールマン”シャチでもない!!ペンギン!!鉄のサックで狙い撃つ!!!》

「“ハンバーガーハンマー”!!!」


正に、直撃。拳に付けた鉄のサックでの攻撃は、ペンギンの頭から血を流させる。受けた場所が頭という事もあり、安否が心配ではあるが、勢い良く地面に叩きつけられ、巻き起こった砂埃でペンギンの姿は目視出来ない。


《まだ攻撃はやまないよ!すかさずビッグパンがアタックの構えーーー!!ハンバーグの体勢はエルボー!!!肘には鉄のサポーター!!これは危険!!最悪のコンボ!!!》


少し離れた場所では、受け身もままならず落下したシャチが地面に横たわっており、ビッグパンもハンバーグもピクルスも、皆がペンギンへと集中しており気にも留めずにいる。砂埃が晴れ始め、見えた其処には血を流し膝をつくペンギンの姿。其の頭上ではビッグパンとハンバーグが次の攻撃に繋がるモーションに入っており、ビッグパンの手が振り下ろされた。


「“パンクアターック”!!!!」


風を切って振り下ろされた手は、ハンバーグを勢い良く垂直に叩き付け、肘に付けた鉄のサポーターを煌めかせたハンバーグは一直線にペンギンへと飛ぶ。誰もが不味いと顔を青くさせた瞬間、素早く動いた影が一つ。


《決まった直撃ーーーっ!!!…ん?いや、躱した!!!ハンバーグのエルボーはペンギンには当たらず地面を抉っただけ!!!ペンギンは一体何処だーーー!!?》


ハンバーグのエルボーはペンギンの肉体に突き刺さる事はなく、唯々地面を深く抉っただけだった。目を丸くし周囲を確認するハンバーグだが、砂埃の所為もあって近くにペンギンの姿を見つけられず、ただ困惑するのみである。


「危ねぇ…!!ゴロちゃん、助かった…!」

「………。」

《巻き上がった砂埃が晴れて…居た!!!ゴロちゃんとペンギンの姿を発見!!!さっきもそうだけど一体何時の間にゴロちゃんは彼処に移動したんだ!!?おっと!その間にもフォクシーチームまだ攻撃の手を休める気はない!!》

「“人間大砲”!!!」

《回った目で起き上がれないシャチに棘付きの肩当が迫るーーー!!!》

「“投石器タックル”!!!」


助かったと胸を撫で下ろすペンギンを尻目に、ハンバーグが地面を抉り着地した場所から少し離れた所で、ペンギンを脇に抱えて佇むは、其の場にペンギンを下ろして直ぐさま次の行動へと移る。身動き取れずに蹲っているシャチへとペンギンから目標を変えたピクルスが、五本の棘が生えた肩当を突き出してシャチへと襲い掛かったからだ。回った目の所為で反応しきれずにいるシャチ。そんなシャチが肩当の餌食となる瞬間、シャチの姿は一瞬にして消えるのである。


《んんんんーーー!?直撃の瞬間、シャチの姿が消えたよ!!一体何処に…居たーーー!!ゴロちゃんに抱えられ離れた場所に瞬間移動をしたシャチを発見!!!一体どうなってるんだーーー!!?グロッキーモンスターズの目を見張る連続攻撃がことごとく躱されているよ!!!》


の身体を走る小さな光。其れは所謂“瞬間移動”の真相とも言える。単純な話なのだ、ただはシャチやペンギンを抱え、雷の速さで移動したに過ぎない。悪魔の実の能力者である事を知らないグロッキーモンスターズや、外野で観戦しているフォクシー海賊団には、さぞかし奇妙な光景に写っている事だろう。回った目も落ち着いたのか、自力で立ち上がったシャチに、駆け寄ってくるペンギン。その2人を見やって、は静かに言葉を紡ぐのだ。


「ゴールはあたしがする」

「!何か策でもあるのか?」


の積極的な発言に、顔を上げて驚きを露わにするシャチ。其の問いには言葉を返す事は無かったが、の身体に一瞬迸る小さな蒼い光に、の思考を策を明確に理解したシャチとペンギンは互いに顔を見合わせ深く頷き、口元に笑みを浮かべた。


「…成る程な!」


ペンギンとシャチの同意を得て、は視線を正面へと向ける。最早敵の武装化に関しては誰も何も言わない。指摘したところで無意味に終わるからだ。今考え、するべき事は、敵のゴールマンをゴールに叩き付ける事である。互いに相手の出方を窺うように動かず見合っていれば、フィールドの外で試合を見守っていたフォクシーが、静かに人差し指を立てて声を上げた。


「おい、お前ら!!!ワン“モンスターバーガー”プリーーーズ!!!」

「「「「「……………!!!」」」」」

「何だ…?」

「さぁ…」


フォクシーの注文に、一瞬にして静まり返るフォクシー海賊団。其の静けさを不気味に思いながら首を傾げるペンギンに、シャチも曖昧な返事を返せば、遥か上空から喧しい実況が流れ出すのだ。


《なんと…!!オヤビン!!“モンスターバーガー”を注文してしまったよーーーっ!!!ハートのチーム絶体絶命ーーー!!!》


同時に、今までにない程の大きな歓声が沸き起こる。フォクシー海賊団からの興奮の熱気は凄まじく、ハートの海賊団は此れから何が始まるのだと不安げにフィールドに立つ3人を見た。グロッキーモンスターズは今迄で一番の笑みを浮かべると、其々が己のズボンの中に手を入れ、其れを取り出すのである。


「ぷぷぷ…ミンチにして、ハンバーグ…!!」

「イヒヒ!!スライスして、ピークールス!!!」

「ぶししし!!ビッグなパンで挟んでつぶせば!!!」

「「「“モンスターバーガー”!!!」」」

《出たよー!!最凶最悪の3連凶器攻撃!!!逃れる術なし!!!これはレッドカード級の反則だねーーーっ!!!》


ハンバーグは鉄棒を、ピクルスは二本の剣を、ビッグパンはシンバルの様な形の巨大な鉄製のものを構えるのだ。単純に考えて、潰され、斬られ、挟まれの連続攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。


「やべぇな」

「まともに食らったらな」


各自手にした武器を振り回す三者からは視線を外さずにペンギンとシャチは呟いた。其の声色に恐れや怯えが無いのは、此方にも策があるからである。


「けど」


にんまりと、口角を吊り上げてペンギンとシャチがへと振り返る。四つの瞳を向けられ、は唇を固く横一文字に結んだ。


「「問題ねぇよな?」」


其の問いには、最早答えるまでもない。


《狙いは当然“ボールマン”シャチ!!!ミンチにされてスライスされてクラッシュされてハンバーガーの具と化すのかな!?》


ハンバーグを先頭に、ピクルス、ビッグパンと続き、三者が一斉にシャチめがけて走り出す。其れを迎え撃つ様にペンギンやシャチ、が動きを見せたのは必然だ。


《おっと!!!ここでハートのチームが一斉に走り出したーーー!!“ボールマン”シャチはハンバーグ、ペンギンはピクルスに向かって全速力!!!でもあれれ、ゴロちゃんだけは真逆に走って行ってるよーーー!!!》


シャチはハンバーグへ、ペンギンはピクルスを引き付ける様に駆け出すが、ただ1人だけは逃げる様に後退する。一直線に下がるを逃さないと言わんばかりに鉄製の武器を甲高い音を立てて鳴らしながら追い掛ける、巨大な影。


《そんなゴロちゃんを追いかけるのはビッグパン!!》

「逃げろ!ゴロちゃん!!」


巨大な身体が、大きな足音と金属音を立てて襲って来る。ただ、大きく足を開いてフィールドを駆けるに、ハートの海賊団の誰かが逃げろと叫んだ。ハンバーグの振り下ろした鉄棒を、風を切りながら振り切られた剣を躱しながらペンギンとシャチは笑った。


「いや!」

「これで良いんだ!」


軽い身のこなしでハンバーグとピクルスの攻撃を避け、カウンターで拳を、蹴りを、相手にプレゼントをする。其の横顔はどこか晴れ晴れとしていて、2人は声を揃えて言った。


「「なぁ?」」


向けられた視線、集まる注目。は駆けていた足を止めると背後に迫ってきているビッグパンを立ち止まって振り返り、見上げるのだ。


「逃げる必要、無い」

「「「「「!!?」」」」」

《おおっとゴロちゃん動かない!!これは激突だーーー!!!クラッシュされてしまうよーーー!!!》


直ぐ近くまで迫る巨体は、砂埃を上げながら迫って来る。其の身体を、否、其の手にある鉄製の武器に狙いを定め、は両手を翳した。の足元には大きな浮き輪。


「ただ“引き寄せる”だけ!」


刹那、翳した掌から発される電気。其れは真っ直ぐとビッグパンへと伸び、大きな鉄製の其れを捉える。


「ぶし!!!?」


真っ先に異変に気付いたのはビッグパンだ。手に装着した武器が、見えない何かの力によって強く引っ張られるのである。其の力はとても強く、不意打ちだった事もあり、殆ど抵抗する間も無くビッグパンの足は地面から離れ、勢い良く引き付けられるのだ。


《な!!んな!!!なんと魚巨人のビッグパンの巨大がァーーー飛んだーーーーー!!!ゴールリングに一直線!!!》


引き付けられ、飛ぶ先は。の様に見えて、其の足元にあるゴール。軌道が完全にゴール一直線に嵌ると、素早くは掌から発していた電気を解き、被害が被らぬ様に其の場から飛び退く。引き付ける力が消えた所で宙を飛ぶビッグパンは急に止まれる訳もなく、手からゴールへと突っ込み、其の頭はゴールに強く叩き付けられてボールは破裂し、凄まじい煙を上げた。


《ゴーーーーーール!!!》


空から響き、空気を震わせるアナウンスの声。一斉に沸き起こった歓声は、言うまでもなくハートの海賊団からだ。


《グロッキーリング決着ーーー!!!デービーバックファイト二回戦!!無敵のチーム、グロッキーモンスターズをくだし!!ゲームを制したのはなーーーんと!!ハートのチーーーム!!!大勝利ーーーっ!!!!》


意識の無いビッグパンが目の前で横たわっている。其れでも見上げなければならない程に、其の身体は大きい。周囲に目を向ければ、ペンギンとシャチは歯を見せて笑っており、其の足元には同じく意識の無いハンバーグとピクルスが転がっていた。


《さー、それじゃあ二回戦の勝者、ハートのチームにはフォクシー海賊団から船員1名もしくは海賊旗を奪う権利が与えられるよーーーっ!!ハートの一味、船長はだーーーれが欲しいのかな!!?》

「そんなの決まってんだろ!」


歓声の中、確かに聞こえる獣の鳴き声。身体中の水分が流れ出てしまうのでは無いかと思うくらいに穴という穴から透明の液体が零れ落ちている。アナウンスの男が問うた。何を望むのかと。其れに高らかに答える船員の誰か。船長が、ローが、何を望むかなんて愚問なのだ。無言を貫き静かに佇む男に皆の視線が集まる。ローの視線の先は、泣きっ面が悲惨な一匹の白熊だ。


「帰って来い、ベポ」


また大粒の涙が、鼻水が、滝の様に白い毛皮の上を伝った。


「アイアイ!キャプテン!!」










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