あの後、今にも暴れそうなを安室が何とか宥め落ち着いた後、的確な応急処置をコナンに施した安室がコナンをラケットをぶつけた女性、琴音の別荘へと運び込んだのは少し前。何故、見ず知らずの女性の別荘へ運び込んだのかと言うと単純に園子の別荘よりも近かった為だ。


さん」


意識の無いコナンを心配し傍を離れない蘭とは、今か今かと琴音の連れである真知という女性が電話で呼び寄せた医師を待った。医師が到着する前に意識を取り戻したコナンに安堵したのは蘭やだけでなく、此の場に居る全員である。と言いたい所だがそうでもなく、琴音と真知と共に来ていた石栗という太った男性はどうでも良いと言わんばかりの態度で、そんな石栗に対し、其の連れの高梨は酷く苛立っている様だった。言わすがな、もである。


「何ですか」

「暴れちゃ駄目ですよ」

「分かってます…!だから今一生懸命我慢を…我慢をですね…!!」

「偉いですね」

「そうあたし偉いんです!」


平常心で居続ける事が難しくなり、はさり気無くコナンから離れると部屋の隅に移動して壁に背を預けた。そんなに気付いて其の隣に並ぶ安室。最初こそ琴音に対して怒りを爆発させていただが、安室の説得の成果は勿論の事、其の後の琴音の謝罪や青褪めた顔を見ると本気で反省している事が窺えたので許す事にしたのだが、そんな折角落ち着いたの感情を先程から刺激してくる存在、其れが石栗である。先程から皆が聞こえる程の大きな声では無いのだが、コナンの容態に関する笑えない冗談をちょくちょく口にしており、は今にも握った拳をどうにかしたい衝動に駆られていた。


「でも…ムカつくんですよあの人!!」

「まあまあ、抑えて抑えて」

「ううううう頭の血管切れそうです!」

「後で甘いものでも食べましょうか」

「是非喜んで!」


震える拳を抑え込み、安室とそんなやり取りを交わしている内に到着した医師。医師は別荘に着くなり速やかにコナンの診察を行うと、最後に安心させる様に微笑みを浮かべた。


「まぁ、意識もしっかりしているようですし…唯の脳震盪でしょう…。でも念の為に手足が痺れたり吐き気や目眩がしたら大きな病院でちゃんと検査してもらう様に!」

「は、はい!」


医師の言葉に真剣に耳を傾ける蘭の隣で相変わらず半目のコナン。頭をぶつけた衝撃が未だ残っているのだろう。帰って行く医者を全員で見送った後、ぼんやりとした様子のコナンが別荘の内装を見渡しながら尋ねた。


「ここ何処?園子姉ちゃんの別荘じゃないよね?」

「ここはあんたにラケットをぶつけた…」

「うちの別荘よ!」


申し訳なさそうに眉を下げた琴音が声を上げ、コナンに向かって顔の前で両手を合わせてコナンからすれば初めての、今日1日のトータルで言えば何度目なの分からない謝罪を口にした。


「ごめんね、ボウヤ…。汗で手が滑っちゃって…」

「だから言ったのよ!グリップテープをちゃんと巻いておきなさいって!あんた汗っかきだから…」

「けど残念だなぁ…俺の携帯の電池が切れてなかったら其の衝撃映像をムービーで撮ってネットにアップしてたのに…。“少年を襲う殺人サーブならぬ…殺人ラケット”ってな!」


謝る琴音を咎める様に呆れ顔で真知が言い、其の後を相変わらず笑えない冗談を口にする石栗。口角を吊り上げながら面白くも無い其れを言うのだから咄嗟にの拳が動き、目敏く其れを捉えていた安室がの拳を上から包む様にして握り、壁に押しつける様に下げさせた。其れに一瞬我に返っては息を呑むのである。


「子供が怪我したっていうのに何言ってんだお前!!」

「冗談だよ!俺はこの重い空気を和ませようと…」

「その冗談が元で瓜生は死んだかも知れないんだぞ!?」

「怒るなよ…其の瓜生の誕生日を祝う為にこうやって久々にサークルの皆で集まったんだろ?」


の拳が振るわれる事は無く、けれど代わりに高梨が石栗を咎めた事によって発展した言い合い。と言っても高梨が一方的に石栗を責めていたのだが、其の会話の中で登場した此の場には居ない人の名前と不吉なワードに安室が握るの手に込められた力が抜けた。


「そうね…喧嘩は止めましょ…」

「瓜生君も悲しむわ…」

「あ、ああ…」


琴音と真知に宥められて引いた高梨。完全に力の抜けたに、安室は手を離して横目で様子を窺うと、の様子に目を丸くするのだ。


「今度はどうしたんですか?」

「いや…なんて言うか…」

「?」

「最近、死に関わる事が多い気がして…」

「たまたまですよ」


レストランを貸し切っていた結婚パーティーでは新婦の初音が自殺し、突然殺人犯の女性に銃を突きつけ人質にされ、先日乗車したベルツリー急行では殺人事件が起き、今しがた高梨は時期は不明だが瓜生という人物が亡くなった事を口にした。安室の言う通り偶々なのかとも思ったが、どう考えても偶々にして頻度が高過ぎる様にしか思えず、となると考え付くのは何か悪いものに取り憑かれてるんじゃ、と考え出すと怖くなって怒りが吹き飛んだのである。そして徐に石栗の視線が此方へと向いた。


「じゃあ少年も無事だった事だし…皆さん俺等と団体戦やりません?男女4人ずつで…何ならミックスダブルスでも…そっちは1人余りますけど…」

「俺は構わねーが…」

「まぁ試合も練習の内ですし…」

「其れならあたし抜きで女子は蘭ちゃんと園子ちゃんやったらいいよ」


石栗の提案に然程乗り気では無さそうながら小五郎が頷き、安室も断る理由が無いからか園子を見ながら同意すれば、すかさずは余る女は自分で良いと片手を上げて名乗れば、皆の視線は自然とへと向くのだ。


さんはやらないんですか?」

「そうですよ、折角ですしやりましょうよ!女子は交互でするとか…」

「そうそう!みんなでやろうよ!」

「苦手で…」


安室が尋ね、蘭が提案をし、園子が後押しするのを、大丈夫だと言わんばかりに眉を下げて笑いながらは手を左右に振るのだ。


「意外ですね、運動得意そうに見えるのに」

「運動はそんな苦手じゃないんですけどね」


園子はそもそも特訓をしに来ていて、自身はテニスは得意では無い。なので交互に休んで回しながら等、そうまでしてテニスがしたいとは思っていないのだ。そして何より、そもそも試合にならない事をは確信していた。


「ボールに当たる前にラケットが折れちゃうんで、毎回」

「ああ、成る程」

「力加減が難しいんですよね。つい力んじゃうんで…」

「それはそれで練習あるのみですよ」

「でしょ?なんでいきなり試合はハードル高過ぎるんで試合は蘭ちゃんと園子ちゃんで」


あたしはこっそり1人で自主練します、とが照れ臭そうに笑えば、事情を聞いた蘭と園子は、そういうことならと納得して引き下がる。話が纏まったものの、の体質を知る者以外には理解し難いやり取りには、唯々不思議でならないのだろうが、追求では無く聞き流す事を選択した真知は石栗に声を掛けた。


「やるのは良いけど休憩してからにしない?」

「そうね…午前中でかなり汗掻いちゃったし…」

「腹も減ったしな…」

「そーいえばうちらも!」

「お腹空いたね…」


真知の後に琴音が続き高梨も同意すれば、タイミング良くお腹を鳴らした園子も自身の腹部を摩りながら言えば蘭も照れ笑いを零した。がスマートフォンで時刻を確認すれば、お昼には丁度良い時間を指しているのだから、知らず知らずの内に時間が経っていたのだと気付かされる。


「お昼、冷やし中華だけど皆さんも食べます?」

「食べます食べます!」

「でも良いんですか?」

「ええ!怪我のお詫びも兼ねて!」


部屋を出ようとしていた琴音がドアノブに手を掛けながら振り返り尋ねれば、異常に食い付く小五郎。相応空腹なのか、其れとも琴音に鼻の下を伸ばしているのか。誘っているのは向こうとは言え迷惑にならないのか安室が確認をすれば、やはり問題無いらしく琴音は嫌な顔一つせずに快く頷くのだ。


「んじゃやっぱ俺の分はいいよ!昨夜のアイスケーキの余りを部屋で食べるから…」

「ったく…」

「そんな物ばっか食べてるともっと太るわよ!」


昼食につく人数が増えた事で気を遣ったのか否かは不明なものの、昼食を断って階段へと繋がる廊下へと向かって歩き出し、さっさと自室のある二階の部屋に戻った石栗に、呆れる高梨と苦笑する真知を尻目に琴音はキッチンに向かうと、は琴音の隣に並ぶのだ。


「手伝いますよ」

「すみません」

「私達も手伝います!」


琴音の手伝いをすべくが申し出れば琴音は柔らかな笑みを浮かべ、続いて蘭と園子も続いてキッチンに立つ。冷蔵庫から山の様に食材を出して抱えた真知が「じゃあお願い」とにこりと笑った。









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