「おめーが“銃騎士の姫”かァ〜〜〜?」

「「!!!」」


ヒナの船が見えなくなった頃、さてそろそろ戻ろうかと考えていた時だ。背後から突然気配も無く聞こえてきた声。驚いてとウィルが同時に勢い良く振り返ると其処には黄色いストライプのスーツに白いコートを肩に羽織った割と年の男が立っていた。見覚えの無い男に咄嗟にグレイマンに手を伸ばせば、それをウィルが手で制し、一歩前へと出る。まるで手を出すなと言わんばかりの行動に少々驚きつつも、それに従いグレイマンには触れずにそのまま中途半端なところで手を止めた。


「黄猿さん、いきなり現れないで下さいよ!吃驚したじゃないッスか」

「お〜〜、悪かったねェ…。けどねェ、気付かなかったウィルが悪いんじゃねぇのォ〜〜〜?」

「そう言われちゃそうなんッスけどね!」


どうやらウィルとこの男は敵ではなく知り合いのようなのだが、どちらにしてもからすれば知らない他人であることには変わりない。手で頭を押さえ、ははっと笑うウィルには説明を求めるように視線を向ける。やり場のなかったグレイマンに伸ばしていた手をそっと下ろせば、から戦意が消えたのを察知したのだろう、ウィルも制していた手を下ろし身体ごとへと振り返った。


「こちらはボルサリーノさん。通称黄猿、大体の人が黄猿って呼んでる。この人も俺の上司で、っていうかかなりのお偉いさんな」

「黄猿さん…。宜しく御願いします、」

「黄猿さん、こっちは

「知ってるよ〜〜」

「え?何で知ってるんスか?」


変な話し方だとか、何で黄猿なんて変な呼び名で呼ばれているのか。というか前の世界に居た有名人に顔がそっくりだとか、気になる所は沢山あったが、それも全て黄猿の発言でぶっ飛ぶ。何故ウィルの上司が自分の存在や名前を知っているのかが不思議で仕方が無かった。それも、ウィルが話した覚えはなさそうな態度に余計にその謎は深まるばかりである。


「知ってる奴は知ってるよォ。“銃騎士のウィル”が黒髪の少女を大層可愛がってるって噂を聞いたもんだからァ…。ちょっとォ、どんな娘か気になって見に来ただけだよ〜〜〜」

「そんな噂流れてるんスか?てか見に来たって仕事暇なんスね」

「…知らなかったのかァ…?今となっちゃァ…其処の御嬢さんはァ、ウィルの異名から取って“銃騎士の姫”なんて呼ばれてるらしいよォ〜〜?」

「おい、!お前姫なんて呼ばれてるらしいぞ!」

「いや、姫とか以前に何であたしに異名なんかついてるの…?」

「ん〜…。わっしもこんなボサボサ頭のォ御嬢さんとは思わなかったねェ〜〜」

「ボサボサ頭だってさ!」

「ウィル!!笑わないで!!」


可笑しそうに笑う黄猿とウィルには顔を赤らめて声を荒げた。撫で付けるように何度も髪を梳いて、未だ笑い続けるウィルを強く睨みつける。その睨みにウィルは只ならぬものを感じ取り、すぐさまその笑みを引っ込めた。そして話を摩り替えるように「そ、そうだ!」と上擦った声で手振りを大げさにして話し出すのだ。


「前に言ったろ?上司にピカピカの実の能力者がいるって!黄猿さんがそのピカピカの実の能力者なんだ」

「え、そうなの?」

「悪魔の実に興味があるんだねェ…」

「それがッスねー」


そこでウィルは黄猿にが食す予定にある、未だ名の無い未定の悪魔の実について話し出す。その実をウィルが所有していることは知っていたらしく黄猿は直ぐに話を理解した。現在何の実にして食すか悩んでいる、そこまで聞けば黄猿は顎に手を当てて唸るようにしてわざとらしく悩んだ素振りを見せるのだ。


「ん〜〜〜…。なら参考までにィ、わっしの能力を少しだけ見せてあげようかねェ〜〜」

「いいんですか!?」

「見せて減るもんじゃないからねェ〜〜〜。…人の少ない所に移動しようかァ。あんまり目立つと困るからねェ、勤務中だからねェ〜〜〜」

「え、黄猿さんサボリっスか?」

「………ウィルゥ〜〜〜。それは言っちゃァ、いけないよォ〜〜?」


港からは真逆の方向になるが、その方面に森があるらしく、あまり人の出入りもしない為、都合が良いことから場所を移動することになった。ウィルが黄猿を地位の高い人だと言っていたが、同時に有名な人でもあるようで、時折行き交う人々が「黄猿だ!」「何故この島に!?」なんて騒いでいるのが聞こえる。よく見れば黄猿の羽織っているコートの背中には“正義”という文字が刺繍されていて、以前ウィルやヒナの言っていた、職業“正義のヒーロー”が蘇る。正義のヒーローと言われると、どうしても美男美女をイメージしてしまう。黄猿は到底正義のヒーローには見えなかったし、むしろ悪役の方がしっくり来る様な気がした。


「黄猿さん、目立ってますよ。これじゃサボってんの上に直ぐバレますって」

「困ったね〜〜…。怒られるのは好きじゃないんだけどねェ…」

「じゃあサボっちゃ駄目っスよ。赤犬さん、絶対怒りますよ。想像するだけで怖いッス」

「(赤犬って何…)」


三人並んで歩いているものの、黄猿とウィルが話をしており、は口を閉ざしたままである。特に会話に加わりたいという願望もなく、居心地が悪いわけではなかった。故に二人の会話をぼんやりと聞きながら歩を進めていたのだが、ふと視線を奪われる。少し先にアイスクリームの屋台が出ていたのだ。屋台の付近には、その屋台で買ったであろうアイスクリームを頬張る人々がちらほらとおり、美味しそうに食べるその姿に惹かれないはずがなく、食べたいなぁ、なんて思ってしまう。徐々に距離が縮まり屋台まであと数m。しかしウィルだけではなく、今日は黄猿が居るのだ。忙しいであろうに時間を割いて能力を見せてくれるというのに寄り道を申し立てるのは些か気が引ける。屋台が消えるわかではない、後でまた来ればいいと自分を言い聞かせて我慢することにした。


「ウィルゥ〜〜」

「はい?」

「わっしはチョコミントとストロベリーのダブルがいいねェ〜」

「は?………嗚呼、アイスっスか?」

「それ以外に無いでしょォ〜〜?美味しいそうなァ、店が目の前にあって食べないなんてェ…勿体ないでしょ〜〜」

「その顔でそんな可愛いメニュー注文しないで下さいよ。も食う?買ってくるけど」

「あ、じゃあチョコとストロベリーのダブル!」

「りょーかい。ちょっと黄猿さんと此処で待ってな」


一つ笑みを零すと、その場にと黄猿を残し、ウィルは一人屋台へと向って行く。まさかの事態に暫く思考が上手く回らなかったが、ふとは黄猿を見上げた。かなり背が高いようで見上げる為にはかなり上を向かなければいけない。長時間このままだと首が痛くなりそうだ、そんな事を思いながら見上げた先では、ふとこちらに視線だけを向けた黄猿がおり、ウインクをされた。


「…ありがとうございます」

「どういたしましてェ〜。…食べたいなら遠慮せずに言えばいいんだよォ〜〜?」


まさか其処まで気付かれていたとは知らず、ふと苦笑いを零す。その時丁度、両手に計3つのアイスクリームを持って返って来たウィル。どうやら自分の分も購入したようで右手には器用に2つ持っていた。しかし、何やら顔色が悪い。


「ウィル…?」

「黄猿さん…何ウインクとかしちゃってんスか……。ロリコンってやつなんスか」


黄猿とは思わず口を噤んだ。ウィルはどうやらその場面を見ていたようで嫌な誤解をしてしまったらしい。どう弁解するべきか、言葉を悩ませれば再びは黄猿を見た。どうやら言葉が出ないらしい、まるで石の様に硬直してしまっている姿を見ては放っておく事を決め込み、さっさとウィルの手から自分のアイスを取り頬張った。










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