翌日、は目の前に広がる光景に目をキラキラと輝かせていた。


「此処がシャボンディ諸島だ」


翌朝、目を覚まし甲板に出るとあった景色。それは今迄見たこと無いような景色が広がっていたのだ。そう、シャボンディ諸島に到着したのである。


「シャボンディ諸島は厳密には島じゃないんだ。79本のヤルキマン・マングローブが集まって出来てるからログも無い。この先にあるグランドラインの後半の海、新世界に行く為に海賊達が集結する島でもあるから、一応も武器もって上陸するぞ」

「はーい!」

「…本当に分かってんのか?」


ウィルの説明や忠告が本当に聞いているのか不安になるくらいに、の返事はとても元気の良いものだった。うきうき、わくわく。そんな言葉が後ろに浮かび上がってきそうな程には今浮かれている。呆れていた気持ちも、鼻歌でも歌い出しそうな程に上機嫌なを見ていれば、次第に微笑ましくも思えてきてウィルは小さく笑った。我ながら、に甘いとしみじみと感じる。


「ウィルー、まだかかるの?」

「急かすなって!」


何度も何度も同じ言葉で急かされ、ウィルは笑いながら碇を下せば、船が停泊したと同時に我先にと陸に降りていったは遥か頭上を見上げた。高く高く聳えるヤルキマン・マングローブに感心の声が漏れる。呆然と立ったままのに、続いて船を降りたウィルは声を掛けた。


「ちゃんと武器持ったのか?」

「持ったよ」


そう言っては着ていた黒のロングコートの前を開いて見れば、コートの下に隠れて見えていなかった、腰のベルトに引っ掛けられた散弾銃一丁が姿を露にする。は再びコートの前を閉じると、コートの上から散弾銃を軽く叩いた。


「普通の洋服用のベルトだから、一丁しか引っ掛けられなくて。グレイマンはコートのポケットに入れてるよ」

「そう言えばホルスター買ってなかったな」

「そうそう。買っておけば良かったわ」


はぁ、と残念そうに息を吐くを横目に見て、ウィルは思考を巡らせる。まず銃に慣れさせることだけを考えていた為、こうして持ち歩くことを全く考えていなかったのだ。つまり、こうも早くが銃の扱いに慣れ、護身用に持ち歩くに充分なアイテムになるとは到底思っていなかったということである。


「また買いに行くか」

「うん。またゴルシル島に行きたい」

「なら次の目的地はゴルシル島で決まりだな」


いつまでも洋服用のベルトに引っ掛けて持ち歩くわけにもいかないので、ちゃんとしたホルスターを購入する必要性を感じ、ウィルがそう言えば、は以前立ち寄った島の名を口にした。その島はグレイマンや、その他の銃を購入した店がある島だ。相当あの島が気に入っているらしい。次の行き先をその島に決めればは大層嬉しそうな笑みを浮かべた。


「さっきガープさんから連絡があってな、明日こっちに着くらしい」

「意外と早かったんだね」

「良い風に吹かれたんだってさ」


風があれば船はどんどん進んでいく。逆に風がなければ船の進みはとても遅い。良い波と、良い気温、良い風に恵まれてシャボンディ諸島にやって来たとウィルも、実際予定していた時刻よりも数時間早く到着出来たのだ。この周辺の海は、恐らくその様な絶好調のコンディションが整っているのだろう。


「多分明日は一日ガープさんと行動一緒だろうから、シャボンディパークは今日行くか」

「やった!」

「んで、夜はカジノな」


人の目も気にせずには喜んだ。シャボンディパークと聞けば子供のように両手を広げて笑顔を見せ、カジノと聞けば不敵な笑みを浮かべて、にんまりと笑う。しかしがギャンブルに魅了されるのも、ウィルは分からなくも無かった。誰だってそうだろう、賭けてみれば必ず当り、負けた事など一度もない。賭ければ賭ける程、お金が増えるのだ。それが現在のだ。最初こそギャンブルに興味が無さそうな人種だったが、それだけの強運があれば誰だってギャンブルに魅了されたことだろう。


「シャボンディパークは30番GRから39番GRまでだから、こっちだな。40番GRから49番GRは旅行者向けの観光と御土産エリアなんだけど、そっちも行くか?」

「勿論!」

「じゃあ荷物増えたら邪魔になるし、シャボンディパークで遊びきってから寄るか。70番GRから79番GRまでがホテル街なんだが、どうする?船で寝泊りするか?」


今日のプランを立てながらとウィルは着実にシャボンディパークに向って歩を進めていた。その際、ふとウィルはに視線をやり首を傾げる。その投げかけた問いは、のことを思っての台詞だった。ここらは海賊達も多く立ち寄る場所で、それも今までの雑魚とは違う新世界を目指し此処までやってきた猛者達だ。う。治安の悪いエリアでは海賊同士で喧嘩を始める事も珍しいことじゃない。ガープに修行を積まれる前では、覇気を上手く使い越せず、故に人の話声などが度々聞こえ、気になり寝れない事があったことをは明かしていた。もしも気になるようならば、ホテルで宿泊せずに人の少ない離れた場所に泊めている船で今迄通り寝れば良いとウィルは思い、に問うたのだ。しかしは一瞬きょとんとした顔を見せると、直ぐに笑みを浮かべて顔を横に振った。


「ううん。それくらいならもう問題ないからホテル泊まりでも平気よ」

「そっか。じゃあ此処で一番のホテルに一泊するか!」

「一番のホテル?いいね、贅沢!」


今迄ホテルに宿泊したことがなかったわけではないのだが、それでも安く狭いような部屋ばかりだった。特に金銭面に余裕が無かったというわけではないのだが、安くつくに越した事はないとの二人の価値観から、高額な部屋で寝泊りすようなことはなかったのだ。シャボン玉がふよふよと頭上を飛び、沢山の人々と擦れ違う。活気のある島だと素直に感じた。他愛ない会話を続けながら歩いていけば、シャボンディパークと大きく看板を掛けた門の様な入口が見えた。その向こうでは大きな観覧車や、ジェットコースター、とても見慣れたアトラクションがある。はたまらずウィルの手を引き、シャボンディパーク内へと駆け出した。引っ張りまわすように、あちこちウィルを連れて歩く。コーヒーカップでは酔ったのだろう、ウィルが非常に顔色を悪くし、観覧車では窓硝子にへばり付いて景色を眺めた。ジェットコースターでは二人で声を上げて笑いながら乗車し、一回では飽き足らず何度も順番待ちをして乗車した。他にも様々なアトラクションを乗り回り、とウィルは笑いの耐えぬ楽しい時間を過ごす。一通りのアトラクションを乗り終えれば、今度は観光と御土産エリアへと移動をした。目に留まった服や小物等があれば店に入り、購入したり、購入しなかったりとを何度も繰り返した。次第にウィルの表情に疲れが見えてきたが、だからと言ってウィルは以前のように帰る事を促すことはなかった。文字通り、今日一日ウィルはに振り回されていたのだ。日も沈み夜になった頃、漸くは満足した。ウィルの両手には大量の紙袋が持たれ、頭の上にまで購入した洋服等が入った箱を積み上げて居る。落さないよう、頭上の箱に気を遣いながら、ウィルはの隣を歩いた。はかなり満足気で、今にも鼻歌でも歌いだしそうな程に上機嫌だ。


「そろそろカジノ行くか?」

「そうだね、一杯お金使っちゃったから稼がないと」


先程の無垢の笑みは何処かへと消え、何か悪い事でも企んでいるのかと疑われても仕方ないような、そんな不気味さを漂わせながらは不敵に笑った。


「それなら一旦今日泊まるホテルに行こうぜ。荷物置いて、着替えてから行かねぇと入場さしてくれないからな」

「あたしはウィルから貰ったドレスあるけど、ウィル持ってるの?」

「まぁな。滅多に着ることないけど」


ふーん、そんな相槌を打ちながらは隣を歩くウィルを見上げた。笑いながら前を向いているウィルの姿に、タキシードを思い浮かべる。黒いソレを身に纏うウィルは、脳内でイメージしただけでも、とても似合っていた。他愛ない話をしながら歩を進め、一度船に戻ると購入した商品を残し、変わりに着替えの衣服類を持ってホテル街へ向う。次第に落ち着いた雰囲気と綺麗なイルミネーションを放つ宿が増え始め、立ち並ぶ煌びやかな建物の中で一際目立つ建造物が目に留まった。細く高く立てられたホテルの最上階は、日が暮れてしまっていることもあり見えない。ウィルはそのホテルへとをエスコートすれば、何時も間にか予約も入れていたらしく、受付で名を名乗れば直ぐに鍵を受け取ることが出来た。


「凄い!広いし、高級感…。何だかお金持ちにでもなったみたい」

「一番高いホテルだからな。最上階だし!」


通された部屋に入れば、其処はまるで高級マンションの一室の様な部屋だった。煌びやかなシャンデリアや、良い素材を使っているのだろう、艶やかな絨毯。派手な装飾こそはないが、細かい手作業で作られたのだろうソファーや棚があり、飾られたランプや絵画はアンティーク調でとても部屋に良くマッチしている。今迄こんな部屋を見たことのなかったはその部屋に酷く興奮した。


「荷物は後で片付けようぜ、部屋の物色もな」


ウィルはそういうと茶色いトランクケースをへと突き出し、にやりと笑う。トランクケースの中には先日ウィルからプレゼントされた黒いドレスが仕舞われているのだ。は笑顔でケースを受け取ると、ウィルも黒いトランクケースを手に取った。










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